エリート海上自衛官の最上愛

胸の高鳴り

 その背中を見送ってから芽衣は晃輝に向き直った。

「すみません、直くん、なんかちゃんとご挨拶できなくて」

「いやそれはべつに。今の方は……お客さん?」

「私の幼馴染なんです。北海道出身なんですが、ふたりともこっちへ出て来ていて。彼は横浜市内に住んでるんですが、私が働き出してからここへ食べにきてくれるようになりました」

 芽衣は直哉のことを簡単に紹介する。

「……どうりで。すごく仲がよさそうに見えたよ」

「家族ぐるみの付き合いだから、もう兄妹みたいな感じなんです。それよりどうぞ」

 ふたりして一緒に暖簾をくぐる。すぐに中から声があがった。

「あ、衣笠一尉、お疲れさまです」

「お疲れさまです」

 店の奥で食事をしていたふたり組が立ち上がり敬礼する。

「お疲れ」

 晃輝が答えると着席した。

 その声に気がついたマスターが厨房から出てきた。

「晃輝……おかえり。なんだ明日からまた出るのか? 今回はやけに早いな」

 長期の航海の前後にだけうみかぜにやってくる息子にそう言った。

「いや……そうじゃなくて。夕食を食べにきただけだよ」

 晃輝が、やや気まずそうに父親の予測を否定した。

「マスター、私がちょっと無理にお誘いしたので来てくださったんです」

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