エリート海上自衛官の最上愛
 彼が来てくれたことに胸を弾ませながら、芽衣は彼をカウンターの席へ案内する。

 第一印象は厳格な印象だったが、話してみるととても柔らかな優しい人だった。

 最後に芽衣と交わした約束を、放っておけなかったのだろう。
 だとても嬉しかった。

 どうしてここまで気持ちが浮き立っているのか深く考えることもせずに、芽衣は彼の前におしぼりと冷たい水を置く。
 マスターがカウンターの中から問いかける。

「なににする? もうチラホラ売り切れているのもあるが」

「煮魚定食残ってる?」

「あー煮魚か……煮魚はないな。今残ってるのは肉じゃがか生姜焼き定食だ」

 マスターが答えると、彼は「残念」と呟いて芽衣を見る。

 その視線に、芽衣の鼓動が飛び跳ねた。もしかして、彼は芽衣が煮魚の調理を担当していると言っていたのを覚えていてくれているのだろうか。

 それで煮魚を頼んでくれた?

 マスターも同じことを思ったのか、晃輝の前にビールとポテトサラダの小鉢を置いた。

「それも芽衣ちゃんが作ったメニューだよ。生姜焼きでいいか?」

 そう言って晃輝がなにか答える前に厨房へ入っていった。

「生姜焼きもおすすめです」

 頬が熱くなるのを感じながら芽衣は言う。

 晃輝がふっと笑った。

「まあそうだろうけど、せっかくなら秋月さんの料理を食べたいなと思ったんだ。それに、俺、煮魚好きだし」

 その言葉に、芽衣の胸は嬉しい気持ちでいっぱいになる。マンションで話した時に思った通り、彼はとても優しい人だ。

「ありがとうございます」

 その言葉に頷いて、晃輝がポテトサラダに手を合わせた。

「いただきます」

 その姿に、芽衣はほんの少し不安になった。

 ポテトサラダの出来は今日も上々だ。大きくていいジャガイモを仕入れることができたし、粉チーズの量もうまくいった。客からの評判もよかったが、一般的な味とは言えない変わり種であることには違いない。

 彼の口に合わなかったらどうしよう……。

 ドキドキする芽衣の視線の先で、晃輝がぱくりと口に入れる。そして切れ長の目を見開いた。

「うまい」

「衣笠一尉、美味しいでしょう。そのポテトサラダ僕たちも大好きなんです。いつも追加で注文するんですよ」

 晃輝の様子を見ていたさっきのふたり組がのひとりがどこか得意そうにそう言った。

「ああ、うまい。君たちがおかわりするのも納得だな」

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