一途な海上自衛官は時を超えた最愛で初恋妻を離さない~100年越しの再愛~【自衛官シリーズ】
 階段を上りきりふたりは三階の廊下を芽衣の部屋目指して進む。

 ドアからあと三歩ほどというところで、晃輝がぴたりと足を止めた。傍へ避けて振り返り芽衣に向かってどうぞというように首を傾ける。自分はこれ以上先へは行かないという意思表示だ。

 その彼の行動に、芽衣はホッと息を吐いた。

 そういえば、以前マスターが、海上自衛隊は英国海軍を手本としていて、いついかなる時も紳士であれと教えられていると言っていた。芽衣を危険から守りつつ、自分自身が相手に不安を与えないように自然と振る舞えるのはさすがだった。

 彼を追い越し、自分の部屋の前まで来て振り返り、芽衣はペコリと頭を下げる。

「ありがとうございました。今日は来てくださって嬉しかったです」

「いや、こちらこそ。ただ秋月さんの煮魚を食べられなかったのは残念だ」

「私も食べて欲しかったです。あ、もちろんマスターの生姜焼き定食も絶品ですけど……。だけど本当に残念。実は煮魚定食に使う魚も私が朝、市場へ行って仕入れるんです。大きさや新鮮さに合わせて味付けを変えたりして。でもそもそも数が少ないから、大抵このくらいの時間には売り切れてしまうんです」

「そんな話を聞いたら、ますます残念な気分になるな」

「じゃあ、ぜひ次回は食べてください」

 さっき彼は、マスターにも『また来る』と言っていた。もうこうやって気楽に誘っても大丈夫だろう。

「ただ、来るとしたらこのくらいの時間になるかな。うみかぜに来るのは若い隊員がほとんどだから、俺がいたら皆、気を使うだろうし。少し時間をずらそうと思う」

 隊員たちが晃輝のことを迷惑そうにしている素振りはなかったが、彼は後輩たちを気遣ってそう言った。

 でもそれでは彼に煮魚を食べてもらうことはできそうにないと、芽衣は眉尻を下げた。

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