エリート海上自衛官の最上愛
「お待ちしてます。でも毎回、煮魚でいいんですか? ほかのがいいならそれでも……」
「いや、煮魚定食がいい。ポテトサラダも残しておいてもらえるとありがたい」

 きっぱりと言い切る彼に、芽衣の胸はドキンと跳ねた。

「おやすみ」

「おやすみなさい」

 部屋へ入ると、芽衣は海側の窓へ歩み寄りカーテンを開ける。ドキドキと鳴る胸の鼓動を聞きながら、煌びやかな横須賀の夜景を眺めた。

 こんな風に、誰かを思い胸をときめかせるなんて少し前の自分には考えられないことだった。

 もともと芽衣は、恋愛に関して、かなり消極的だった。

 学生時代は、学費を稼ぐためにバイトばかりしていたし、働き出してからも激務でそれどころではなかったし。さらにホテル時代に、嫌な思いをしたことがあったからだ。

『いいよな、女の子は仕事辞めても結婚すれば食べてけるじゃん』

『自分の店を持つ? 飲食はきついよ? 女の子には無理無理。結婚したら辞めまーすってわけにいかないんだよ?』

 そんな言葉をかけられているうちに、恋愛なんて自分には不要、店を持つという夢のためには、邪魔になるとすら思うようになったのだ。

 でも彼は、芽衣の仕事に対する情熱を尊重してくれる。

 芽衣の話を嫌がらずに聞いてくれる。いつも興味深げに、問いかけてくれるのだ。その姿勢に、芽衣はいつも励まされているように感じるのだ。

 こんな男性となら、店を持つという夢を追いかけながらでも愛を育むことをできるかもしれない……。

 もちろん彼の方はそんなこと思ってもいないだろう。

 彼が芽衣の仕事を応援してくれて、話を聞いてくれるのは、たくさんいる後輩たちに対するのと同じ気持ちだからだ。

 それを心の中で確認して、芽衣はゆっくりとカーテンを閉めた。
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