エリート海上自衛官の最上愛

もしかして

 金曜日、午後八時を過ぎたうみかぜはいつもと違い少し騒がしかった。
 
 一時間ほど前に来た四人組の隊員が食事を終えた後も帰らずに、話に花を咲かせているからである。厳しい訓練と勤務の合間の束の間の息抜きといったところだ。

 マスターもそれがわかっているようで、いくつかのつまみと追加の酒を持っていくように芽衣に言う。

 芽衣がそれらをテーブルへ持っていき、マスターからのサービスだと伝えると、彼らはおおっと声をあげた。

「マスター、ありがとう。うるさいかな?」
「いやいや、大丈夫だ。たまにはゆっくりしていってくれ」

「嬉しいなあ」

 客とマスターのやり取りを聞きながら、芽衣が別のテーブルを拭いていると、入口のドアがガラガラと開いて、晃輝が入ってきた。

「おかえりなさい」

 驚いて、芽衣は少し大きな声で彼を迎える。今日は"行く"というメッセージを受け取っていなかったからだ。

「ただいま。急遽時間が取れたんだ」

 にっこりと笑って答える晃輝に、芽衣の胸は嬉しい気持ちでいっぱいになる。

 あらかじめメッセージが入っていて彼が来るのを待っている時も嬉しいけれど不意打ちで顔を見られるのは、もっと嬉しい。

「衣笠一尉、お疲れさまです」

 客たちがいっせいに立ち上がって挨拶する。

「お疲れ……俺、タイミング悪かったかな」

 晃輝がやや申し訳なさそうにした。

 食事を終えても帰らずにビール片手につまみを突いているのだから、彼らが会話を楽しんでいたのは一目瞭然だ。隊員たちが羽を伸ばしているのに、上官の自分がいてもいいのかという気遣っているのである。

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