エリート海上自衛官の最上愛
 もちろんビールくらいは飲むのだが、そんな時、うみかぜにはとくにつまみになるメニューがない。皆定食についてくるポテトサラダをつついている。

 それに気がついた芽衣はポテトサラダにアレンジを加えることをマスターに提案したのだ。

 ハムをパストラミに変更して粉チーズを加え黒胡椒をアクセントにピリリとした味付けにすると、酒に合う一品になる。
 
 それでいてジャガイモをたっぷり使っていることには変わりないから、お腹も膨れて一石二鳥。試しに出してみるとこれが大好評で、今やすっかりうみかぜの定番メニューとして定着している。
 マスターが洗っていた鍋を干して手を拭いた。

「芽衣ちゃん、ちょっとジャガイモがどのくらいあるか見てくるよ」

 そう言って厨房に入っていく。

 芽衣はオムライスを食べながら、それ以外の食材は……と考えを巡らせた。営業にあたり食材をどのくらい用意しておくのは、料理をするより難しいと芽衣は思う。

 曜日や天気、過去の売り上げの推移、さまざまなことを考慮して決定するのだが、ここうみかぜでは、艦船が基地に停泊しているかどうかが目安になるということか。

 そんなことを考えながら、芽衣は窓の外に目をやる。

 ……真っ青な海を背にした灰色の巨大な艦船、いずもが目に入り、芽衣の胸がドキッとする。

 頭の芯がすっと冷えるような嫌な感覚に襲われる。慌てて芽衣は目を逸らし、グラスに入った水を飲んだ。心を落ち着かせホッと息を吐く。

 その時、店の扉がガラガラと音を立てて開いた。

 反射的に芽衣はスプーンを置いて立ち上がる。

「いらしゃ……」

 言いかけて、口を閉じた。

 暖簾をくぐってきた三十代くらいの男性は、屈強な男性を見慣れている芽衣でも、目を見張るほど背が高く、がっちりと鍛え上げた身体つきをしている。

 それでいて、切れ長の目とスッと通った鼻筋の精悍な顔つきは、どこか洗練された印象だ。

 十中八九、海上自衛官なのだろうが、それにしても他の隊員とは少し違った印象を受ける。
 芽衣にとっては、はじめて見る顔だ。

 ——それなのに。

「おかえり……なさい」

 思わず芽衣はそう声をかけてしまう。
 どうしてか、そう言うべきだと思ったのだ。

 男性は後ろ手に扉を閉めながら、首を傾げて芽衣を見る。少し間をおいて、低い声で答えた。

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