エリート海上自衛官の最上愛
「お前のそんな姿を見られるのは嬉しいよ」

「大袈裟だな、このくらいで」

「だが、……それ以外のこともしっかりやっとるみたいじゃないか幹部中級課程のトップはなかなか取れるものではない」

 珍しく、面と向かってマスターは晃輝を褒めた。

「俺を抜くは確実だな。母さんも喜んでるだろう。爺さんは……ああ見えて厳しい人だったから、まだまだだと言いそうだが」

 感慨深げにマスターは言う。息子の活躍が心底嬉しそうだった。

 その言葉を晃輝はスプーンを持つ手を止めて聞いていた。しばらく沈黙したあとに、水を飲んで静かにグラスをカウンターに置いた。

「父さんは越える。必ず。……それが、海自を辞めて俺を育ててくれたことに対する恩返しだ。今まで嫌な態度を取っていたことは謝るよ、ごめん」

 真っ直ぐにマスターを見て低い声で晃輝はっきりとそう言った。

 マスターが目を見開いた。

「晃輝……」

「海自に入隊して改めて、母さんが亡くなった後の、父さんの決断の重みがわかったよ。一生を捧げると誓った仕事を辞めて、俺を育ててくれたんだ。だから、俺がその父さんの意思を引き継ぐ。必ず父さんを越えるよ」

 晃輝の言葉に、マスターが眉を寄せてぐっとなにかを堪えるような表情になる。エプロンで顔を覆い、くるりとこちらに背を向けた。

「芽衣ちゃん、ちょっと俺、在庫切れがないか見てくる……」

 鼻を啜りながらそう言って厨房へ入った。

 芽衣も、こちらでのやり取りには気が付かずに盛り上がる隊員たちに見えないようにこっそりと涙を拭いた。

「変なとこ見せてごめん。……もしかして、親父が海自を辞めた時のこと聞いてた?」

「はい、お母さまが亡くなられたことがきっかけだったって」

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