エリート海上自衛官の最上愛
「その粘り強さは、訓練で発揮しろ」

 カウンターに座り黙って食事をしていた晃輝が遮った。

「なんならお前の上官に言ってメニューを増やしておこうか?」

「えー勘弁してください。うちの隊は他より多いんですから」

 隊員は情けない声をあげた。

「なら今日はもう諦めて帰れ。しつこくするのは仕事中だけにしろ」

「はい。芽衣ちゃんごめんね。じゃあまた」

 隊員は素直に芽衣に謝って、連れ立って店を出ていく。

「ありがとうございました」

 芽衣がホッとして彼らを見送った時、マスターが戻ってきた。

「ああ、皆帰ったのか、今日はもうそんなにお客さんも来ないだろう。ちょっと早いけど芽衣ちゃんもう上がっていいよ。晃輝、頼む」

 芽衣はその申し出をありがたく受けて、ちょうど食事を終えた晃輝とともに店を出た。

「今日は、申し訳なかった。隊員たちがしつこくして。不快な思いをさせたなら、俺からも謝罪する」

 芽衣の部屋の前に来ていつもの位置でぴたりと止まり、晃輝が芽衣に頭を下げた。思いがけない丁寧な言葉に芽衣は驚いて首を横に振る。

「不快だなんてそんな……! 私は大丈夫です」

 どう断ればいいかわからなくて困惑したのは確かだけれど、不快とは思わなかった。むしろその場の雰囲気を壊さずに自分で断れなかったことを恥ずかしく思った。

「ちゃんと自分でお断りできればいいんですが、ああいう時私あまりうまく対応できなくて。ホテル時代に叱られたことがあります。お客さまからのお誘いを雰囲気を壊さずにお断りできるようにならないと料理人失格だって」

 ホテル時代、スウィートルームに長期間滞在していた客に、なぜか芽衣が気に入られていた時期があった。

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