エリート海上自衛官の最上愛
「晃輝さんみたいな上司のもとだと、きっと気持ちよく働けるだろうなって思います。皆さんから慕われているもの……納得です」

 頬が少し火照っているのを彼に悟られないように芽衣は視線を落とした。

 あまり踏み込んだことを言ってしまうと、芽衣の想いが伝わってしまいそうだけれど、このくらいの言葉なら大丈夫だろう。

「それはどうかな……」

 晃輝がそう言って、一旦口を閉じしばらくなにかを考えている。

 少し不思議なその沈黙に芽衣が首を傾げると、彼は思い切ったように口を開いた。

「……さっきあの隊員止めたのは、君たちのためだけじゃなかったような気がする」

「え?」

 彼の言葉を意外に思って視線を上げると、晃輝が自分を見つめていた。

 それが、いつもの優しい目とは、少し違っているように思えて芽衣の胸がドキッとした。

「あいつらが君に馴れ馴れしくするのを、俺自身が不快に感じたんだ」

 思いがけない言葉に、芽衣は息が止まりそうなほど驚いて、なにも答えることができなかった。

 隊員たちが、芽衣に親しげにするのを彼は不快に感じた。

 それはつまり……?

 晃輝が軽く咳払いをする。

「いや……俺だって、こんなことを思う立場ないのはわかっている。だからはじめは黙っていようと思ったんだが、あいつらが、あまりにも君に親しげにするから、気がついたら口を挟んでしまっていた」

 真っ直ぐに芽衣を見て、晃輝がさっきまでの自分の気持ちを率直に語る。

 その意味を理解すると同時に、芽衣の頬と耳がこれ以上ないくらいに熱くなっていく。
 頭の片隅でそうだったらいいのにと思いながら、あり得ないと打ち消したことが現実になろうとしている。すぐには信じられなかった。

< 56 / 182 >

この作品をシェア

pagetop