エリート海上自衛官の最上愛
「悪い、不快に思ったのなら申し訳ない」

 黙ったまま答えられない芽衣の反応をどう捉えたのか、彼は眉を寄せる。芽衣は慌てて首を横に振った。

「違います! 不快なんて思っていません! 私……ただ、まさか晃輝さんもそう思ってるなんて思わなかったから……」

 とそこで、慌てて口を閉じる。

 彼の誤解を否定したくて言ってしまった言葉だが、これではもう芽衣の気持ちは彼に丸わかりだ。深く考えないようにしているが、自分でも彼に対する気持ちが特別なものだということくらいわかっている。

 とても彼の顔を見ることなどできなくて芽衣はうつむく。視界の先で晃輝の足がわずかに動いた。いつものラインを越えようとしているのに気がついて、芽衣の胸が痛いくらいに高鳴った。

 ——でも彼の靴は、ラインを越えることはなく、元のところへ戻った。

「日曜日のイベントは、地元のメディアの取材が入ることになっている。海自の公式ホームページでも紹介されるはずだ」

 唐突に話を戻した晃輝を不思議に思って芽衣は顔を上げる。

 雰囲気を変えようとしているのかと思ったが、そうではなく、彼は相変わらず熱を帯びた眼差しで芽衣を見ていた。

「少しでいいから、目を通してくれないか。できれば君に俺の仕事を知ってほしい」

「海上自衛隊のお仕事を?」

「ああ、その上で俺はさっきの話の続きをしたい。俺の仕事は特殊で制約も多い。君がなにも知らない状態で、俺とこれ以上距離を縮めるかどうかの決断を迫るのべきではないと思う」

 彼の職業柄、ふたりが付き合うことになったとしても、一般的な恋人同士とは違う付き合いになるということだ。それを芽衣が予測できない状態で、気持ちを伝えるべきではないということか。

 どこまでも誠実で思いやりのある人だと芽衣の胸が熱くなった。

 もうお互いの気持ちはほとんどわかっている状態だ。ならばこのまま流れに任せて、芽衣から彼にとって都合のいい返事を引き出すことは簡単なのに。

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