エリート海上自衛官の最上愛

イベント

イベントが開催される日曜日は、よく晴れていた。

 その日芽衣は迷った末に、仕事中は後ろでひとつに結んでいる髪をおろして、グリーンのドルマリン袖のブラウスにワイドパンツを合わせることにした。
 
 お気に入りのバッグを肩から斜めに下げて、意気揚々と坂を下りる。

 基地へ着くと、普段は閉まっているであろう門が開いている。中の広場には白いテントがずらりと並び制服姿の隊員たちが店を開いている。

 訪れているお客さんたちは、様々だ。

 観光客と思しき人たちや、地元の子供達、カメラを持ったミリタリー好きの男性たち、皆滅多に入れない基地の中に、興味津々だ。

 隊員たちのかっちりとした制服は一見すると近寄りがたいように思えるけれど、皆ニコニコと一般客たちを出迎えていて、子供たちとの写真撮影にも気軽に応じていた。

 想像していたよりも楽しそうなイベント会場だ。胸を弾ませながら広場を歩く芽衣にあちらこちらから声がかかる。

「芽衣ちゃん、来てくれたんだ」

「今日は俺たちがおもてなしするよ」

 白いテントのブースには、食べ物のお店だけでなく、自衛官の職務内容を紹介する展示や、防護服を実際に着られるコーナーなどがある。

 それを芽衣はゆっくりと見て回った。普通に生活しているだけでは知り得ない海上自衛隊の役割に驚き感心していた。

 彼らが担う国防という役割は、普段は意識することなどないけれど、この国に欠かせない重要な仕事なのだ。

 店に来る陽気で礼儀正したい隊員たちが、皆重い使命を背負っているのだということを知り、頭が下がる思いがする。

 ひと通り回った芽衣は『護衛艦いずも』と書かれてある立て看板の方へ進む。

 その向こうには、巨大な建造物のようにそびえ立つ灰色の護衛艦が停泊している。中へ入ることはできないが、外からだけでも見てみようと思ったのだ。

 もちろん、心の中は複雑だ。

 こんなに船に近づくのは両親のことがあって以来。

 でもそれよりも、もしかしたら晃輝を見られるかもしれないという期待感の方が勝っていた。

 ちょうどあるグループが船内の見学を終えて出てくるところのようだ。

 船と岸を繋ぐ橋をたくさんの人が渡っている。彼らに目を配りながら、岸側で迎える隊員が視界に入り、芽衣の鼓動がドクンと跳ねた。

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