エリート海上自衛官の最上愛

告白

「今日はごちそうさまでした。美味しかった……」

 うみかぜが建つ丘へ続く坂道をゆっくりと上りながら、芽衣は晃輝に礼を言う。

 隣の晃輝が安堵したように笑った。

「そう言ってもらえて安心したよ。料理人の君をどんな店に連れていくべきか実は少し悩んだんだ。結局よく行く店にしたんだが」

「すごく美味しかったです」

 イベントの後、約束通り、七時きっかりに芽衣の部屋へ迎えに来てくれた晃輝が食事をしようと連れていってくれたのは、落ち着いた雰囲気の創作料理の店だった。

「でも、ちょっとまたお話ししすぎたかも……すみません」

 彼は個室を予約していた。つまりそこで例の話をするつもりだったのだ。

 もちろん芽衣だってそのくらいはわかっていたけれど、料理が運ばれてきたと同時に頭から吹き飛んでしまったのだ。

 主に魚介類を使った料理が自慢のその店のメニューは、どちらかというと斬新な調理法で、以前芽衣がいたホテルの料理人たちが見たら眉をひそめたかもしれない。

 でも客を楽しませつつ素材の良さを引き出すという自由な発想に芽衣は感動を覚えた。

 まず盛り付けに驚いて、食べてみて感心して、晃輝の意見を聞いてみたり自分の感想を話しているうちに、あっという間に時間が過ぎて会計の時間になってしまったのだ。

 今は、店を出て芽衣の家へ送ってもらっている帰りである。

 はじめてのふたりだけの食事だと言うのに、雰囲気も何もあったもんじゃないと呆れられていてもおかしくない。

 肩を落とす芽衣の隣で、晃輝がくっくっと笑った。

「いや、楽しかったよ。君の話はどれだけ聞いても飽きないから。あの店は魚介料理が多いから、気に入るんじゃないかなと思ったけど予想以上だったな」

 彼の笑顔に、芽衣の鼓動はとくんとくんと音を立てた。相変わらずドキドキすることには変わりないが、あの基地での強い衝動のようなものはない。そのことに芽衣は少しホッとした。

「どうかした?」

 黙ったまま見つめる芽衣に、晃輝が笑うのをやめて問いかける。

「いえ、いつもの晃輝さんだなと思って。昼間のお仕事中は制服だったから、不思議な感じがしました」

「ああ、制服ね」

「はい。なんか、いつもと全然違って見えました。すごく……ドキドキして」

 と、そこで芽衣は、しまったと思い口を閉じる。あの強い衝動を思い出しながら思わず口にしたけれど、考えてみれば本人を前に言うことではなかったかもしれない。

「えっと……そうじゃなくて。いえ、そうじゃないわけじゃないけど……」

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