エリート海上自衛官の最上愛
 奥の客たちから晃輝に声がかかる。十中八九さっきの話だ。芽衣は顔から火が出そうな心地がした。

「なんだ?」

 晃輝はカウンターへは座らずに彼らの方へ歩み寄る。

「隣の隊の同期から、イベントの日の夜、芽衣ちゃんと食事をしていたという目撃情報が入りました!」

「状況報告願います」

 冗談混じりに、芽衣とのことを質問する。

 晃輝がややバツが悪そうな表情になった。

「お前ら……早いな」

「はい! 情報の収集には、自信がありますっ!」

「情報って……」

 晃輝が呆れたようにため息をついた。とはいえ、隠したり誤魔化すつもりはないようだ。はっきりと宣言する。

「君の想像している通りだ。秋月さんとお付き合いさせてもらうことになった」

 彼らのテンションはマックスになった。

 大袈裟に残念がる者、祝福する者。

 彼らの話を晃輝は穏やかにやわらかく受け止めている。

 付き合っていることが周囲に知られてどう振る舞えばいいかわからない芽衣に比べて、余裕のある態度で彼らに答えているのがさすがだ。
 
考えてみれば彼ほどの人が、横須賀の街でふたりでいて、誰かに目撃されることを想定していないはずがない。あらかじめどうするかは決めていたのかもしれない。

「秋月さんは僕らの癒しでありましたから、非常に残念ですが、お相手が衣笠一尉というのを私はむしろ嬉しく思います」

 客のひとりが立ち上がってそう言った。

 この中で一番若そうな客だ。晃輝の方は見覚えがないようで問いかける。

「君は?」

 隊員が背筋を伸ばして敬礼した。

「『はたかぜ』所属の江口といいます」

「よろしく」

 海上自衛官は同じ船の上では家族のように過ごしているという話だが、さすがに他の艦隊の隊員を含めた全員の名を把握しているわけではないようだ。

 江口が敬礼したまま、話し続ける。

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