エリート海上自衛官の最上愛
「以前よりいつか一尉とお話ができる機会があれば、お礼を申し上げたいと思っておりました。私の母は、衣笠一尉に助けられたことがあります」
「お母さまが?」
「はい。私の母は、太平洋沖で起きたクイーンマリア号座礁事故の乗客でした」
「……そうなのか」
晃輝が目を見開いた。
クイーンマリア号は十年ほど前に起きた外国客船の座礁事故だ。
大きな事故で、世界中がその救助活動の様子を報道してた。
日本でもこの時期はテレビをつければこの事故のことでもちきりだったことを記憶している。日本人も数十人乗船していたことは記憶しているが、芽衣はそれ以上詳しく知らなかった。
船の事故という言葉だけで、両親のことを思い出すからだ。
従伯母もこの時期は、芽衣がこの話題に触れないように神経を尖らせていた。
「当時大々的に報道されてはいませんでしたが、近くを航行中の海上自衛隊の船が救助にあたったと母から聞きました。船上で日本語で話しかけられた時は涙が出たと。その時暖かい毛布と飲み物をもらい優しく励ましてくれた隊員に、お名前を教えてくださいと願いしたそうです。その方は、衣笠だとおっしゃったと」
隊員が語る内容は他の隊員たちにとっても初耳だったようだ。皆言葉を失っている。
「私はその話を母から聞いて、海上自衛官を目指すことを決めたんです。当時の記録を調べて、あの時母を励ましてくださった隊員が衣笠一尉だったと知ってから、いつか必ずお礼を申し上げたいと思っておりました。あの時は、母とその他の乗客たちの命を救ってくださり、ありがとうございました」
江口はそう言って、深々と頭を下げた。
いつも冷静な晃輝もさすがに驚いたようだが、しばらくして落ち着いた様子で口を開いた。
「あの時は、遠洋練習航行の帰りだった。救助にあたったのは私だけではない。だが……そうか、君はあの時の女性の……」
「はい、ですから私は必ず衣笠一尉のような立派な自衛官になって見せると決めております」
江口がそう宣言すると周りは「おおっ」と声をあげる。
「期待してるよ」
「はい!」
江口が笑顔で答える。
晃輝も心底嬉しそうだ。
……けれど、少し離れた場所でそのやり取りを聞いている芽衣は、自分の血の気がさっと引いていくのを感じていた。
「お母さまが?」
「はい。私の母は、太平洋沖で起きたクイーンマリア号座礁事故の乗客でした」
「……そうなのか」
晃輝が目を見開いた。
クイーンマリア号は十年ほど前に起きた外国客船の座礁事故だ。
大きな事故で、世界中がその救助活動の様子を報道してた。
日本でもこの時期はテレビをつければこの事故のことでもちきりだったことを記憶している。日本人も数十人乗船していたことは記憶しているが、芽衣はそれ以上詳しく知らなかった。
船の事故という言葉だけで、両親のことを思い出すからだ。
従伯母もこの時期は、芽衣がこの話題に触れないように神経を尖らせていた。
「当時大々的に報道されてはいませんでしたが、近くを航行中の海上自衛隊の船が救助にあたったと母から聞きました。船上で日本語で話しかけられた時は涙が出たと。その時暖かい毛布と飲み物をもらい優しく励ましてくれた隊員に、お名前を教えてくださいと願いしたそうです。その方は、衣笠だとおっしゃったと」
隊員が語る内容は他の隊員たちにとっても初耳だったようだ。皆言葉を失っている。
「私はその話を母から聞いて、海上自衛官を目指すことを決めたんです。当時の記録を調べて、あの時母を励ましてくださった隊員が衣笠一尉だったと知ってから、いつか必ずお礼を申し上げたいと思っておりました。あの時は、母とその他の乗客たちの命を救ってくださり、ありがとうございました」
江口はそう言って、深々と頭を下げた。
いつも冷静な晃輝もさすがに驚いたようだが、しばらくして落ち着いた様子で口を開いた。
「あの時は、遠洋練習航行の帰りだった。救助にあたったのは私だけではない。だが……そうか、君はあの時の女性の……」
「はい、ですから私は必ず衣笠一尉のような立派な自衛官になって見せると決めております」
江口がそう宣言すると周りは「おおっ」と声をあげる。
「期待してるよ」
「はい!」
江口が笑顔で答える。
晃輝も心底嬉しそうだ。
……けれど、少し離れた場所でそのやり取りを聞いている芽衣は、自分の血の気がさっと引いていくのを感じていた。