エリート海上自衛官の最上愛
 音に気がついて厨房から出てきたマスターが言う。疲れているわけではないが、このまま冷静に勤務を続けられそうになかった。

 まだ血の気が引いたような感覚は残ったまま。盆を拾い上げることもできないほどに手が震えている。動揺から抜け出せないままに、芽衣は頷く。

 芽衣、晃輝そして直哉が連れ立って、店の外へ出た。

「部屋まで送る。その足で階段は心配だ。それから……話がある」

 直哉が言って芽衣を支えたまま、階段を上ろうとする。

「直くん……ありがとう。でも」

 芽衣は躊躇して振り返った。

 直哉に部屋まで送ってもらうことに戸惑っているのではない。

 晃輝が見ている状況でそれをしてもいいものかわからなかったからだ。直哉については兄のようなものだ。

 こうやって助けてもらうことだって昔はよくあった。それは晃輝に説明はしているけれど、男性であることには変わりない。

 晃輝が口を開く。

「直哉くん、だったかな。俺が芽衣を送るよ」

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