エリート海上自衛官の最上愛
「いや、ダメだ。あんたがそばにいたら芽衣の動揺は収まらない」

 鋭く言い返した直哉の言葉に、晃輝が目を見開いて固まった。

 その内容に、芽衣の立ちくらみがただの疲れからくるものではないと気がついたようだ。困惑した様子で芽衣と直哉を見比べている彼に、芽衣の胸がズキンと鳴る。

 なんと説明すればいいのだろう。

 きっと彼は、さっき話に出た女性だけでなく、もっとたくさんの人の命を救ってきた。皆に感謝されるべき彼の職務。それなのにその仕事を芽衣が受け入れられないなんて。

「……どういうことだ? 芽衣」

 尋ねられても芽衣は答えられなかった。自分の過去と彼の仕事、頭の中がぐちゃぐちゃで冷静に説明できる自信がまったくない。それどころが、今口を開けば不用意な言葉を口にして彼を傷つけてしまいそうだった。

 芽衣の代わりに直哉が答える。

「今は、あんたはそばにいない方がいい。芽衣がどうしてこうなったのかすら心あたりがないみたいだしな」

 晃輝がなにも知らないのは、彼のせいではなく芽衣が事情を話していないから。

 そう直哉に言わなくてはならないのに、動揺しすぎてうまく言葉が出てこない。このままここにいて、冷静に戻れるとは思えなかった。
 今はとにかくひとりになりたい。

「芽衣、行くぞ」

 直哉に手を引かれて歩き出す芽衣は、晃輝の方を振り返ることもできなかった。

「晃輝さん、ごめんなさい」

 声を絞り出して階段を上り出した。
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