エリート海上自衛官の最上愛
「お会いできて嬉しかったです。衣笠一尉は僕の目標なんですよ。僕の同期も皆言ってます。職務にストイックで自分に厳しい方なんで、お見かけするだけで自分も頑張らなきゃって思わせてもらえるので」

「目標にするなら、もっと上の階級の者がいるだろうに。あいつはまだ一尉。ここまでは皆一斉昇進だろう」

 マスターが肩をすくめた。

「ですが、衣笠一尉が幹部になられるのは間違いないですよ。幹部中級課程をトップの成績で終えられたと聞きました。近々、指揮幕僚課程も受けられるはずです。将来は艦長になる器の人物だって上官たちも言ってます」

 客がマスターに熱弁する。飛び交う専門用語に面食らう芽衣に、マスターが補足する。

「海上自衛隊には教育過程がいくつかあってね。晃輝は防衛大を卒業して入隊したからもともと幹部候補生ではあるんだが、入隊してからもさまざまな試験や教育過程を受ける必要がある」

 そこで優秀な成績を収めた者だけが、幹部になれるという。
 それにしても入隊してからもずっと教育を受け続ける必要があるなんて、厳しい世界なのだ。

「僕は所属が違うので普段はお話できないですが、今日はご挨拶できてラッキーでした」

 嬉しそうにそう締めくくり、客は帰っていった。彼は最後の客だからランチタイムはこれで終わりだ。

「ありがとうございました」

 声をかけながら、芽衣は晃輝が座っていた場所のカウンターを拭く。さっきまでそこに座っていた彼の姿が頭に浮かんだ。

 定食を前に手を合わせて目を閉じていた姿は厳しい印象を受けたが、若い隊員からの挨拶に答えていた時の目元はマスターと同じように優げに思えた。

 はじめて会うはずなのに、彼の低い声音にはどこか聞き覚えがあるような……。

「芽衣ちゃん、俺、肉屋に電話してくるよ」

 マスターに声をかけられ、少しうわの空だった芽衣はハッとする。

「はい」

 答えて、再び手を動かした。
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