エリート海上自衛官の最上愛
「……とにかく、俺は絶対に反対だからな。そもそも付き合う話になってるのにあの話をできていないなんて、そんな関係で、うまくいくとは思えない。場合によっては、おばちゃんを連れてきてでも付き合いをやめさせるつもりだから」

 一方的に宣言して、彼は部屋を出て行った。

 ひとりになった芽衣は、グラスを手にしたまま考える。

 海へ出たまま両親が帰らなかった時のことが蘇る。

 どんなに気をつけていてもこういうことはあるのだと、周りの大人たちは言っていた。自然相手の仕事だから予期せぬ事態に巻き込まれることもある、と。

 両親と晃輝は、職種は違えど同じように海へ出る仕事なのだ。

 彼と付き合うということが、両親を待っていたあの頃と同じ状況になるのだということに思いあたらなかった自分は、なんて馬鹿なんだろう。

 晃輝は、芽衣が考える時間をくれたのに。
 台風の話を聞いた時に引っ掛かりを覚えたのに突き進んでしまったのだ。

 グラスを床に置いてベットにごろんと横になると、向かいの棚に置いた両親の写真が目に入った。

 彼のことは好きだけれど、彼と付き合うということは一年の半分以上をこんな気持ちで過ごすということなのだ。記念日に会えないとか旅行の計画を立てづらいとか、そんな生やさしいものではない。

 耐えられるはずがない。

 ——ならば直哉から言われなくても、結論はすでに出ているのだ。

 彼に好きだと言われた時にきらきらと輝いて見えた世界が、灰色に染まっていくのを感じながら、芽衣はゆっくりと目を閉じる。目尻から涙が一筋流れた。
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