エリート海上自衛官の最上愛

戸惑いと葛藤

 うみかぜの店先で、晃輝は芽衣の扉を見上げている。彼女にとって直哉は、兄のような存在だと聞かされているとはいえ、ふたりで部屋の中へ入っていったのを見て、冷静でいられるわけがなかった。

 本当なら、少し強引にでも直哉を帰し自分が芽衣を部屋へ送りたかった。

 けれどそれを思い止まったのは、他でもない彼女の自分を見つめる瞳が、怯えているように思えたからだ。芽衣自身が、今は晃輝が近づくことを望んでいないのは明らかだ。

 しばらくするとドアが開き直哉が部屋から出てくる。

 階段を下りてきて一旦店の中へ戻り会計を済ませ、カバンを持って出てきた。
 そして、晃輝のところへやってきて正面から晃輝を睨んだ。

 その視線に、晃輝は彼の方は芽衣を"妹"とは思っていないことを確信する。

 考えてみればはじめから彼が晃輝に対して好意的とは言えなかったのは、芽衣に近寄る男を本能的に警戒していたのかもしれない。

 そもそも横浜市内からこの店までは電車を使って小一時間。夕食を食べにくる距離ではない。

 芽衣が働いているからこそ来るのだろうが、ただの幼馴染の関係だと考えると不自然だ。

「しばらくひとりにしてやってください」

 晃輝が部屋へ行かないように、彼は釘を刺した。

「わかりました。付き添いありがとうございます。芽衣は大丈夫そうですか?」

 晃輝は努めて冷静に問いかける。

 聞きたいことは山ほどあるが、一番知りたいのは芽衣の様子だった。

 なぜ彼女があんなにも動揺したのか悔しいけれど心あたりはない。だがふたりとのやり取りを考えると、さっきまでの晃輝の行動が引き金になったということは確かなのだろう。

「大丈夫だとは思います。こういうことははじめてではありませんし。そのうち落ち着きます。……あなたが、余計なことをしなければ」

「俺が?」

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