エリート海上自衛官の最上愛
 急所を突くような問いかけに、晃輝は言葉に詰まり沈黙する。すぐに答えを出せるような質問ではなかった。

「とにかく、芽衣には絶対に近寄るな。あんたが自衛官でいる限り、芽衣とあんたは幸せにはなれない」

 そう言い放ち、直哉はこちらに背を向けて坂を降りていった。

 それを見送ってから振り返り晃輝は芽衣の部屋のドアを見上げる。そこに、青い顔でこちらを見つめる芽衣の瞳が重なった。

 今すぐに部屋へ行き抱きしめたい衝動にかられるが、拳を作りどうにかそれをやり過ごす。直哉の言う通り、そんなことをすれば彼女をさらに混乱させてしまうだろう。晃輝としても事実を知ったばかりで、なんと声をかけるべきかわからない。

 彼女の部屋のドアから目を逸らし、ため息をついた時、店の扉がガラガラと開いた。

「晃輝、いたのか。芽衣ちゃんはどうだった?」

「……直哉くんが部屋まで連れていってくれたよ。だけど相当疲れているみたいだ。明日も休ませてやってほしい」

 平静を装ってそう言うと、父は心配そうに頷いた。

「ああ、それはもちろん。だが芽衣ちゃんのことだから、大丈夫と言いそうだな。ちょっと無理やりにでも休むように言った方がよさそうだ。晃輝、入れ。まだななにも食べてないだろう?」

「いや、今日はもういいよ。このまま帰る。じゃあまた」

「……ああ、気をつけて」

 坂に向かって歩き出すと、ふわりと潮の香りを感じた。もう日が落ちて随分経つというのに風はまだ生暖かい。

 どこにいても海を感じるこの街は、晃輝にとっては慣れ親しんだ故郷であり、人生をかけると誓った誇りある仕事の拠点となる大切な場所でもある。

 ……だが芽衣にとってはそうでないのだ。
 それを寂しいと感じるのは身勝手な思いなのだろう。

 暗澹たる思いを抱えながら、晃輝は芽衣と気持ちを伝え合った公園を通りすぎる。目の前に広がる横須賀の夜景から目を逸らし、これまでのことを思い浮かべた。

 ——思い返してみれば、芽衣には出会った瞬間から特別なものを感じていた。

 はじめて彼女に出会った時、うみかぜの暖簾をくぐり『おかえりなさい』と言われた時、言葉で言い尽くせない不思議な思いを抱いた。懐かしいような、ようやく会えたといったような複雑な感情だ。

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