エリート海上自衛官の最上愛
うみかぜへは、長期で航海へ出る日の前日と、帰ってきた時に一回ずつのみ顔を出すと決めていたにも関わらず、芽衣に誘われて、"また行く"と答えてしまったからだ。
行きたくなかったわけではない。
むしろその逆で、もっと彼女の話を聞きたい、彼女の作るものを食べたいという想いが確かに存在するのを感じていて、そんな自分に戸惑っていたのだ。
たかだか実家に行くか行かないかでこんなにも迷うとは、普段の自分ではあり得ないことだった。
晃輝は、いついかなる時も瞬時に正しい判断を下せるように常に平静を心がけている。それが海上自衛隊の幹部には、必要不可欠なことだからだ。
いつまで迷っているのは性に合わない、実家に行くのに理由なんていらないだろうと自分自身に言い聞かせてうみかぜに行くことにしたあの夜、坂を上り切ったところで、自分が彼女に惹かれはじめていることに気がついた。
直哉と芽衣が店の前で親しげに話をしているのを見て、落胆を覚えたからだ。
すぐに幼馴染だと知って安堵し、店の中で晃輝の仕事の話を目を輝かせて聞く彼女の姿を見ているうちに、それは確信に変わった。
今まで自分が目にした世界中の海の色を、誰かと共有したいと思ったのははじめてだ。
……だが今から考えてみるとあの話は、彼女にとっては酷な内容だったのだろう。それを思うと胸が痛んだ。
それからは、うみかぜに行き食事をしながら彼女の話を聞くことが、日々厳しい職務に就いている晃輝にとっての癒しとなり、自分にとって彼女が特別な存在になるのにそう時間はかからなかった。
とはいえすぐに距離を縮めようとは思わなかった。
前職で彼女が経験したことを考えれば、男性自体に不信感を持っていてもおかしくはない。幼馴染や窮地を救った父親ならまだしも出会ったばかりの自分が急に距離を詰めれば怖い思いをするだろう。
晃輝は、なにより芽衣の気持ちを大切にしたかった。
つらい境遇から自力で脱して新しい環境で夢に向かってまい進する彼女を応援したかったのだ。今の彼女に晃輝からの気持ちは必要ない。それどころか、混乱させるだけだと自分自身に言い聞かせて。
行きたくなかったわけではない。
むしろその逆で、もっと彼女の話を聞きたい、彼女の作るものを食べたいという想いが確かに存在するのを感じていて、そんな自分に戸惑っていたのだ。
たかだか実家に行くか行かないかでこんなにも迷うとは、普段の自分ではあり得ないことだった。
晃輝は、いついかなる時も瞬時に正しい判断を下せるように常に平静を心がけている。それが海上自衛隊の幹部には、必要不可欠なことだからだ。
いつまで迷っているのは性に合わない、実家に行くのに理由なんていらないだろうと自分自身に言い聞かせてうみかぜに行くことにしたあの夜、坂を上り切ったところで、自分が彼女に惹かれはじめていることに気がついた。
直哉と芽衣が店の前で親しげに話をしているのを見て、落胆を覚えたからだ。
すぐに幼馴染だと知って安堵し、店の中で晃輝の仕事の話を目を輝かせて聞く彼女の姿を見ているうちに、それは確信に変わった。
今まで自分が目にした世界中の海の色を、誰かと共有したいと思ったのははじめてだ。
……だが今から考えてみるとあの話は、彼女にとっては酷な内容だったのだろう。それを思うと胸が痛んだ。
それからは、うみかぜに行き食事をしながら彼女の話を聞くことが、日々厳しい職務に就いている晃輝にとっての癒しとなり、自分にとって彼女が特別な存在になるのにそう時間はかからなかった。
とはいえすぐに距離を縮めようとは思わなかった。
前職で彼女が経験したことを考えれば、男性自体に不信感を持っていてもおかしくはない。幼馴染や窮地を救った父親ならまだしも出会ったばかりの自分が急に距離を詰めれば怖い思いをするだろう。
晃輝は、なにより芽衣の気持ちを大切にしたかった。
つらい境遇から自力で脱して新しい環境で夢に向かってまい進する彼女を応援したかったのだ。今の彼女に晃輝からの気持ちは必要ない。それどころか、混乱させるだけだと自分自身に言い聞かせて。