エリート海上自衛官の最上愛
 三十を超えてからは、そういう誘いは意識して避けるようしている。年齢的に結婚の話になるからだ。上官からの見合い話も断るようにしている。

 そんな自分が、芽衣に出会ってからはその決意を忘れたかのように、芽衣との関係を深めたのだ。今から考えると軽率だったのかもしれない。決して後悔しているというわけではないが……。

 いずもから目を逸らし、ベッドに倒れこんで晃輝はふーっと長い息を吐く。

 固く決意していたはずの決まりを簡単に違えてしまっていた自分自身に呆れるが、そのくらい芽衣は自分にとって特別な存在なのだ。それを今改めて思い知る。

 これまでも女性に対して恋愛感情を抱いたことはあったけれど、ここまで冷静さを失ったことはなかった。

 いつも自分の人生を見据えて相手との距離を間違えないようにしていた。そう考えると、今までの相手に恋愛感情を抱いていたのかどうかもよくわからなくなるぐらいだった。

 常に自分のいる立場を考えて場合によっては深入りする前に身を引くこともあったというのに、彼女に関してはまったくその自制が効かなかったのだから……。

 ため息をついて目を閉じると、ポケットの携帯が震える。画面を確認すると芽衣からのメッセージが届いていた。

 連絡先を交換して以来、彼女の方からメッセージを送ってくるのははじめてだ。

《申し訳ありません、お付き合いする話ですが、やっぱりなしにして下さい。晃輝さんが悪いのではありません。すべて私の問題です。私の覚悟が足りなかったのです。本当にごめんなさい》

 目を細めて、晃輝はそのメッセージを睨む。

 さっき直哉から芽衣の過去の話を聞いた時から、こうなるかもしれないと予感した通りの展開だ。

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