エリート海上自衛官の最上愛
 すべてを自分のせいにして終わらせようとする芽衣に胸が痛む。

『すべて私の問題』と書かれてあるが、それは間違いだ。

 彼女の苦しみは彼女のせいではなく、海上自衛官という晃輝の立場からくるものなのだ。

 芽衣がそれを告げることなく自分のせいにして終わらせようとするのは、晃輝にとって海上自衛官をいう仕事がどれだけ大切なのかを知ったからだろう。

 こうなってみると、付き合う前にイベントに誘ったことが悔やまれた。知らなかったとはいえ晃輝と仕事が切り離せないものだと認識させてしまったのだ。
 思わず晃輝はメッセージアプリの通話ボタンを押したい衝動に駆られる。ひとりで罪悪感に苦しむ彼女を少しでも楽にしてやりたい。

 ——けれどいったいなにをどう言えば彼女の心が救われるかがわからずに、晃輝は思い留まった。自分の心が定まらないうちに、不用意なことを言えばただ彼女を混乱させさらに苦しめることになる。

 彼女のためを思うなら、このままこの言葉を受け入れるべきなのだろう。

 直哉の言う通り、晃輝との付き合いは彼女にとって負担がかかる。ならばまだ付き合いが浅いうちに、離れる方がお互いのためにはいい。

 けれどそれはしたくないと、晃輝の心が拒否をした。

 しばらく考えて返信のメッセージ音打つ。

《ご両親の話は、直哉くんから聞いたよ。芽衣が謝ることはない。むしろ俺の方の配慮が足りなくて申し訳ない。芽衣の気持ちはわかった。君がそう言うのは当然だ。ただ俺は、まだ結論は出したくない。しばらく考えさせてほしい》

 送信ボタンを押してそのままベットにぽすんと置く。

 目を閉じると、怯えたような目をした彼女と、料理の話をする時の弾ける笑顔が交互に浮かんでは消えた。

 芽衣にとって一番いい選択と、彼女を求める自分の中の強い想いが交差して、その夜は、答えを見つけることができなかった。
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