エリート海上自衛官の最上愛

直哉の告白

 ガタガタガタと海側に面している窓枠が揺れる音がして、芽衣はビクッと肩を振るわせ、テーブルを拭いていた手を止めた。窓の外は真っ暗だ。雨は降っていないけれど、とにかく風が強かった。

 時刻は午後七時、本当なら今の時間のうみかぜは、お客さんで賑わっている時間だ。でも今夜はがらんとしている。いるのは直哉だけだった。

 今年はじめての大型の台風が本州に接近中なのである。関東へは明日の午後通過するという予報だが、すでに風が強かった。

 横須賀基地の艦船はすでにすべて出航しているのだろう。ここへ食べにくる隊員は極端に少なく、今は直哉がカウンターにいるだけだ。

「今日はもう誰も来ないだろう。芽衣ちゃん今夜は早めに閉めようか」

 カウンター越しにマスターが言う。

「はい

 芽衣は答えて再び机を拭いていく。

 横須賀基地の向こうの海は真っ暗で見えないが、この風では相当荒れていることは想像できる。その海へ晃輝が乗ったいずもが出航していったというのがどうしても芽衣には受け入れがたいことだった。

 いずもは台風くらいでは沈まない。

 元海上自衛官だったマスターが平然といているところを見ると晃輝の言ったことは本当なのだろう。

 けれど……。

 三日前、クイーンマリア号の事故の話を聞いた夜に、芽衣は晃輝に別れを告げた。

 メッセージで伝えるなんて不誠実だと思ったが、会って直接言う勇気がなかったのだ。どう話をしても、彼の仕事を悪い意味で持ち出すことになりそうだからだ。

 それに対する彼からの返事は保留。

 けれど芽衣は結論を変えるつもりはなかった。

 彼と恋人同士になるということは、一年の半分を、海の上にいる大切な人を心配し続けるということを意味する。

 そんなこと、自分に耐えられるわけがない。彼が帰ってくるたびに泣いて怒って彼を困らせてしまうだろう。

 ——ああ、でも。

 芽衣は布巾を握り締めて、夜の海を睨んだ。

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