エリート海上自衛官の最上愛
 芽衣の髪に顔を埋めて直哉が押し殺した声を出す。その内容に、芽衣は目を見開いた。

『幸せにしてやれる』

 それはつまり今までのような幼馴染としての関係ではなく……。

「どうしてあいつなんだ。この間知り合ったばかりでなにも知らないじゃないか。俺は……俺の方がずっと昔から芽衣を見ていたんだ。お前の夢が叶うまでは、料理人として一人前になるまでは見守っていようと思ってた。俺の方があいつより長い間、芽衣のことを大切に思ってきたのに‼︎」

 苦しげに直哉は想いを吐き出していく。思っても見なかったその内容に、芽衣は言葉を失う。

 記憶にある限り、彼は芽衣にそのような素振りを見せたことはなかった。

 いつもどんな時も、彼は芽衣にとって頼れる兄のような存在であり、安心できる場所だった。その存在に、何度救われたかわからない。

 その彼の血を吐くような告白が芽衣の胸を刺した。そしてその痛みが罪悪感となって広がっていく。

 彼の想いを受け入れて彼と一緒に生きていけば、きっと平穏な人生が待っている。彼は芽衣のトラウマを理解してくれているし、芽衣の夢も応援してくれているのだから。

 ——けれど。

 自分の中のどこをどう探しても、彼を男性として愛する気持ちは見つからない。

 それを心底申し訳なく思いながら芽衣はそっと直哉の胸を両手で押す。芽衣を包んでいた彼の腕はすぐに緩んだ。

「直くん……ごめんなさい。私、直くんのことそんな風に思ったことなくて……直くんは私にとって大切な人だけど。でも……」

 自分の中の気持ちをうまく伝えられないのがもどかしくてつらかった。

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