エリート海上自衛官の最上愛
 本当ならこんな時、もっとキッパリと拒否した方がいいと芽衣は経験で知っている。曖昧な言い方はかえって相手を苦しめるから。

 でもこれまでの彼とのことが頭の中を駆け巡り強い言葉が出てこない。

 彼は芽衣にとって大切な人。

 ただ男性として愛せないだけなのだ。

 それが申し訳なくて苦しかった。

「ごめんない……ごめん」

 それしか言えずに、同じ言葉を繰り返す。
 直哉が芽衣から身を離して、頭をぐしゃぐしゃとした。

「謝るな。芽衣が俺のことそう思っているのは知ってたし。……俺の方こそ……ごめん。お前にはいつも笑っていてほしいのに、俺が混乱させてどうするんだって話だよな。……ちょっと頭冷やすわ」

 そう言って芽衣の方に背を向けて坂を降りていった。

 強い風が吹き抜けてうみかぜの暖簾を揺らしてバタバタと音を立てた。

 荒ぶる真っ黒な海の上で揺れている船のような気分だった。

 なにもかもがうまく噛み合わずに、光はどこにも見えないまま。

 自分がどこの港へ向かっているのか、たどり着けるのかどうかもわからない。いっそこのまま沈んでしまいたい……。

 芽衣は両手で顔を覆い、堪えきれずに嗚咽を漏らす。

 海から吹く強い風がゴォォォという音を立てていた。
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