エリート海上自衛官の最上愛

晃輝の決意

 午前二時、大きく揺れるいずもの船内の長い廊下を、晃輝は真っ直ぐに歩いている。

 現在停泊しているのは横須賀港沖のある場所で、海は大型の台風の接近により大しけだ。とはいえ、いずもにとっては特に異常な事態でもない。

 日本の海上自衛隊が誇る護衛艦にとってこのくらいの台風はどうということはない。

 航海中、乗務員たちは三交代制で勤務にあたる。

 晃樹は今休憩に入ったところだった。自分のベッドに戻る途中、食堂へ立ち寄る。部下たちの様子を確認しようと思ったのだ。

 まだ入隊して日の浅い隊員の中にはこの大きな揺れに耐えられず体調を崩す者もいる。
 
 案の定、ひとりの隊員が青い顔で食欲がなさそうに食事を取っているのが目に入った。晃輝は歩みより彼の肩に手を置く。

「あまり無理するなよ。ものを食べられないくらいなら、医務室へ行け」

 すると彼は振り返り、情けない顔になった。

「衣笠一尉。……ですが、このくらいで」

「そのうち慣れる。無理するな」

 彼の肩をポンポンと叩き晃輝が食堂を出ると、上官が立っている。

「お疲れさまです」

 廊下にて晃樹が挨拶をすると、彼は頷きふっと笑った。

「相変わらず、面倒見がいいな」

「たまたま通りかかったら青い顔をしているので気になっただけですよ」

「そうか、だがお前のそういうところは部下たちから慕われている所以だろう」

 話をしながら廊下を進む。

「他の方が、彼らを厳しく育ててくださっているからです。優しいだけでは優秀な隊員は育ちませんから」

「言うようになったな、晃輝。衣笠さんも喜んでいるだろう」

 彼も非番なのだろう。晃輝のプライベートでの呼び方を口にした。

 今彼が口にした『衣笠さん』とは父親のことを指す。彼は父の現役時代の部下で親しく付き合っていた。晃輝のことを小さな時から知っていて、母が亡くなった際のことを近くで見ていた人物なのだ。

「どうでしょうか。父からすればまだまだでしょう」

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