エリート海上自衛官の最上愛
「お前は、お母さまが亡くなった時の衣笠さんを許せていないのか?」

「父とは和解しました。もうずっと前から恨んではいなかったですし」

 そのまま黙り込むと、上官はため息をついた。

「まあお前が慎重になるのは理解できる。だが、晃輝、俺はお前こそ家族を持てばうまくやれると思っている。俺には陸で待つ家族の気持ちは本当のところまでは理解できん。経験がないからな。時々無神経なことを言って妻を怒らせることがある。この前も家を出る時に『じゃあ帰る』と妻に声をかけて嫌な顔をされてしまった」

 そう言って上官は頭をかいた。

 海上自衛官は、所属している艦船を母艦だという認識でいる。

 だから家を出る時にこう言ってしまうことがあるのだ。実際航海の際は生活空間になるのだから、無理もない話なのだ。

「だが、お前は知っているじゃないか。陸で待つ家族の気持ちを。そんなお前なら、きっといい家庭が築けるよ」

 そう言って彼は晃輝の肩をポンポンと叩く。

「まぁこれは年長者からのおせっかいくらいに聞いてくれたらいい。お前の人生だ。仕事にすべてを捧げるというのも悪くはないしな。お疲れさん」

 部屋の中へ入っていく上官を晃輝は敬礼で見送った。

 目から鱗が落ちたような気分だった。

 晃輝は今まで、海上自衛官の家族としてつらい経験があるからこそ家族を持つことに否定的だった。

 だが、逆の考え方ができるということに気づかされたからだ。陸で待つ家族の気持ちを知っている自分だからこそ、家族の気持ちを思いやることができる。

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