エリート海上自衛官の最上愛
 芽衣の気持ちを受け止めることができれば、彼女を失わずに済むのだろうか……。

 晃輝は回れ右をして廊下を進む。

「あ、衣笠一尉、お疲れさまです」

「お疲れさまです」

 廊下ですれ違う隊員たちの挨拶に答えながら、自分のベッドを目指した。

 少し前までの晃輝も、ここいずもが自分の帰る場所だと思っていた。基地近くのマンションはあくまで陸にいる期間過ごすための場所という認識だった。

 実家であるうみかぜは、もっと遠い存在だった。年に数回訪れるだけだからだ。

 ——でも今は、うみかぜが自分の帰る場所だと強く思う。それは紛れもなく芽衣があの場所にいるからだ。

 ずっと距離があった父との関係を修復できたのは芽衣のおかげだ。

 晃輝の中の父へのわだかまりは、遠の昔になくなっていたけれど、うまく向き合うことができていなかった。

 でも芽衣があの店に来てくれて、うみかぜに通っているうちに自然と父と話をしなくてはという気持ちになったのだ。

 今すぐに会いたいと切実に思う。自分が帰る場所は、どこであろうと彼女が存在する場所だ。そうありたいと強く願う自分がいる。

 もう彼女のいない頃の自分には戻れない。

 ——ならば。

 なんとしても彼女と生きていく。

 自分にはその道しかないと思うくらいだった。

 そのためには、彼女の過去も苦しみも、どんなことも受け止める必要があるのだろう。自分と生きる人生が彼女にとってつらいものであってはならないのだから。

 彼女がつらいと思うすべてのことから、晃輝自身が彼女を守り抜く必要がある。

 ——その先に、彼女との未来があるのなら。

 拳を握りしめて足早に廊下を進みながら、晃輝は決意を固めていた。
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