エリート海上自衛官の最上愛
それでも君を愛してる

揺るぎない想い

 台風が過ぎ去った後の日曜日は、前日の大雨と暴風が嘘のように晴れ渡っている。再び戻ったきつい日差しの中、芽衣は坂を下りている。休日の買い出しに行くためだ。

 途中、晃輝と気持ちを伝え合ったあの公園の横を通りかかる。小さな男の子と母親がブランコで遊んでいた。

「ママ、お船、いるよ」

 海の方向を指差して男の子が声をあげる。

「本当だねー。おっきいねー」

 つられて芽衣は視線を移す。

 横須賀基地にいずもが停泊している。無事に帰ってきたのだ。

 一昨日、関東を通過した台風は強い暴風雨を伴うものだったが、晃輝の言う通りそれくらいでは海上自衛隊の船艦はびくともしないのだろう。

 頭ではわかっていても心は別だった。

 芽衣は暗澹たる思いになる。
 
 彼に別れを告げたとて、心配で胸が潰れるような気持ちは何ひとつ変わらなかった。

 台風はひと夏の間に何回も来るのに、自分はいったいどうすればいいのだろう。

 その時、カバンの中の携帯が震えてメッセージが届いたことを知らせる。恐る恐る画面を確認すると、晃輝からだった。

《今から会えないか? 何時になってもいいから、直接会って俺の話を聞いてほしい》

 前回の彼からのメッセージでは考えさせてほしいと書いてあった。と言うことは、彼の中で芽衣との関係に結論が出たということだろうか。

 ——聞くのが怖いと芽衣は思う。

 芽衣の方はなんと言われようと彼とは付き合えないという結論が出ている。

 それでも、それを彼の口から聞きたくはなかった。

 とはいえ、メッセージだけで終わりにすることはできない。覚悟を決めて、芽衣は画面をタップした。
< 98 / 182 >

この作品をシェア

pagetop