親愛なる魔王様へ〜The Beast〜
「ここ、どこ?」

僕、望月光(もちづきひかる)は辺りを見回しながら歩く。ここは森の中。自分よりもずっと大きな木々が空に向かって立っている。歩いていると少しずつ何かを思い出してきた。

僕は学校終わりに車に跳ねられた。それから先のことは思い出せないけど、でも何があったのか何となくわかる。望月光は死んだ。そして、この奇妙な森を今は彷徨っている。

どうやら僕は子どものようだ。体が小さいせいですぐに転び、木の枝に服を引っ掛けて一部を破いてしまう。体にはあっという間に傷ができた。ズキズキと痛む体を引き摺るようにただ歩く。ーーー行く宛てなんてどこにもないのに。

僕はどうしてこんな森を彷徨っているんだろう。こんな小さな子どもを森に置くなんて、普通の両親はするのだろうか。擦り剥いてしまった膝の傷、そして頭がとても痛い。

「うっ……!」

手で頭を押さえてその場で蹲ってしまう。すると「大丈夫?」と声をかけられた。顔を上げて見たものに、僕の世界が一瞬にして変わった気がした。

青みがかった艶のある黒髪に、宝石のように綺麗な赤い瞳。僕より少し歳上らしき綺麗な男の子がそこにいた。こんなに綺麗な人、僕は見たことがない。
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