人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる
「ごめんなさい……。実はロイドにシアだとバレてしまったあの日にフォルトゥナでスヴェンと会っていたの。ただ、誓ってロイドが疑うような陰謀の企てとかではないの! 本当よ?」

「では何をお話になっていたのかお伺いしても?」

「それは……。そうね、話すべきよね」

スヴェンの個人的な希望でもあるからどうしようかと思ったが、疑われている以上、素直に白状した方がいいだろう。

ただでさえロイドには王宮を抜け出すことに目を瞑ってもらっているのだ。

これでもし問題が起きたら、ロイドの責任問題にもなりかねないから、彼が気にするのは当然のことと言えた。

「私が婚姻したらこの国に呼び寄せて欲しいとスヴェンからお願いされたの。騎士として私に仕えたいって。スヴェンは自分が戦争で負けたことで私が嫁ぐことになったと罪悪感を持っていて、だからそんなことを言い出しているのだとは思うんだけどね」

「なるほど。未婚のアリシア様の側に若い男性が仕えることは外聞が良くないですが、既婚となれば別だろうということですね」

「ええ、まさにそう言っていたわ。だけど私はスヴェンを巻き込みたくないのよ。彼は要職に就いた優秀な騎士だし、侯爵家の後継ぎでもあるし……」

「それで対策、ですか。具体的には?」

ざっくり話しただけなのに、これだけでロイドは大体のことを把握してしまったようだ。

私が先程口走った「対策」という言葉の経緯もきっちり繋がっている。

「スヴェンは私がお飾りではなく愛のある婚姻を結び、皆から愛され認められるような妃になったら諦めてくれそうなの。……さすがに愛のある婚姻は無理だけど、皆に認められる妃であれば頑張りようはあるんじゃないかと思って! だから通訳も務めてみようかと考えたのよ」

「突然通訳をするとおっしゃった時は驚きましたが、なるほど、そういう経緯なのですね。納得しました」

「あ、でも、最初にそう申し出たのはロイドが困ってるみたいだったから力になりたいなって思ったからよ? スヴェンのことは正直後付けな部分もあるわね」

「私の力になりたい、と思われたのですか……?」

ロイドは目を丸くして、一瞬ポカンと呆けた顔になった。

 ……あれ? 何かおかしなことを言った?

意外なロイドの反応にこちらも目をぱちくりしてしまう。

でも次第にいつも冷静でクールなロイドのちょっと間抜けな表情がなんだか可笑しくなってきて、クスクスと小さな笑みを漏らしてしまった。

それにハッとしたロイドは、コホンと咳払いをしてなにかを誤魔化している。

陰謀を疑われたことによる、さっきまでのピリッとした空気はすっかり消え失せていた。
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