人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる
◇◇◇

「お久しぶりでございます、エドワード殿下。本日はよろしくお願い致します」

「ふんっ。くれぐれも私の足を引っ張らないようにな。君を通訳として同席させる決定をしたのは苦肉の策なのだから、勘違いしないように」

「ええ、もちろんでございます」

私は今、使節団を迎えるための謁見の間で、実に半年以上ぶりに婚約者であるエドワード殿下と面していた。

半年前に会った時はなんとも思わなかったが、彼が側妃との愛欲の日々に溺れ、執務を放り投げているという実情を知っている今、この横柄な態度には多少思うところがあった。

聞いたところによると、今回の私が通訳を務める話は当初エドワード殿下が拒否したらしい。

通訳だとしても他国の王族の前で私が隣に並ぶことが嫌だったのだという。

その理由は側妃が嫌な気持ちになったり、私が勘違いするから、だそうだ。

ある意味側妃に一途で素敵なのだが、通訳が他にいないという状況が全く読めていないというか、把握していない視野の狭さに残念な気持ちになる。

最終的にロイドやアランに説得されて渋々頷いたということだった。

「本当にタンガル語が話せるのだろうな? これで役に立たなかったら我が国の恥晒しだ。その時はただではおかないからな」

「はい、承知いたしております」

「そのベールは取らないのか?」

「ええ、以前お話致しました通り、婚姻までは人に見せない伝統文化ですので。タンガル帝国も文化や伝統に重きをおく国ですからご理解頂けるかと存じます」

そう言って恭しく頭を下げて見せるが、エドワード殿下をはじめ、周囲にいる貴族からも疑わしげな目を向けられた。

そうこうしていると、謁見の間の扉がノックされ、扉の前にいた護衛が声を上げる。

「タンガル帝国の第二王子ヨダニール様および使節団の皆様のご到着でございますっ! お通し致します!」

その一言ののち、謁見の間の扉が開き、ロイドに案内されて浅黒い肌色に頭にターバンを巻いた一団が中へ入って来た。

一目でタンガル帝国の人たちだと分かる風貌をしている集団だ。

先頭にいる他より豪華な装飾の服を身につけた一際目立つ彫りの深い顔の男性が第二王子だろう。

その第二王子だけがエドワード殿下と私が座る椅子の向かいに腰掛ける。

他の人たちは背後に控える形だ。

『初めまして。タンガル帝国の第二王子ヨダニール・タンガルと申します。この度は私の訪問を快く受け入れてくださり感謝いたします』

ヨダニール王子が手を差し出してエドワード殿下と握手を交わす横で、私は今の言葉をエドワード殿下に通訳する。

通訳は後ろに控えている側近の誰かだと思っていたらしいヨダニール王子は、隣の私が話し出したことに一瞬だけ驚いたような顔をした。

「ユルラシア王国の王太子エドワード・ユルラシアです。遠路はるばるようこそ我が国へお越しくださいました」

エドワード殿下の言葉はヨダニール王子の背後にいる通訳が訳して伝えている。

双方の通訳は相手の言った言葉を訳して自国の者へ伝えることだけが今回の役割だった。
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