人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる
「ごきげんよう、アリシア様」

「お招きありがとう、マティルデ様。素敵な離宮ね」

マティルデ様の侍女に案内されたのは、薔薇の花が美しく咲き誇る庭園だ。

そこで相変わらず昼間なのに露出の多いドレスを着たマティルデ様に妖艶に微笑まれて迎えられた。

今日はこの庭で薔薇を愛でながらお茶をするらしい。

私の離宮の庭とは比べ物にならないくらい手の掛けられたこの美しい庭を見せびらかすのも一つの狙いだろう。

マウンティング好きなマティルデ様らしい演出だと思いながら、テーブル席に誘導され、私は腰を下ろす。

私とマティルデ様が席につくと、周囲にいるそれぞれの侍女が素早くお茶の準備を始めた。

「今日は最高級のダージリンティーをご用意しましたのよ? エドワード様もお気に入りですの」

侍女によって目の前にサーブされた紅茶をまずは一口マティルデ様が口をつける。

こういうお茶会では主催者側が毒味を兼ねて他の出席者より先に食事や飲み物に口をつけるのが貴族間でのルールなのだ。

マティルデ様が飲んだのを見て、続いて私もティーカップに手を伸ばそうとしたところで「あら、そうだわ」とマティルデ様が何かを思い出したように声を上げた。

その声で一旦手を止めた私を、マティルデ様はワザとらしく気遣わしげに見てきた。

「そういえば、私、アリシア様をお茶会にお誘いしてしまいましたけど、大丈夫でした? ベールを付けたまま紅茶は召し上がれます? ベールを外せないなんて不便でしょうしアリシア様はお可哀想ですこと」

お可哀想と言いながら、その口元は明らかに笑んでいる。

周囲のマティルデ様の側近もクスクスと笑いを堪えるようにしているのが分かった。

 ……これはベールのことに触れて、遠回しに私の容姿が醜いことを馬鹿にしているのね。

確かにマティルデ様は妖艶な色気のある美女だから、容姿に絶対的な自信があるのだろう。

別に容姿でマウントを取られたところでなんとも思わないので、私はサラリと流して、事実としてベールをしていても紅茶が飲めることを返事することにした。

「ご心配ありがとう。でもベールを付けていても問題なく紅茶は飲めるわ。この前タンガル帝国のヨダニール王子がいらっしゃった時にもお茶をご一緒させて頂いたもの」

私としては、他国の王族相手でもお茶ができるのだから大丈夫よと言ったつもりだったのだが、どうやらマティルデ様には違う意味で捉えられてしまったようだ。

この言葉を聞いた瞬間、明らかに気分を害したようにマティルデ様は顔を歪めた。
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