人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる
「なんでもその側妃は子爵令嬢のようで、正妃にするには身分が足りなかったみたいですね。だからこれまで正妃の椅子が空いていたようです」

「それで同盟の証として他国の王女と形だけの婚姻は都合が良かったのね」

「そのようです。側妃へのご寵愛が深すぎて、自国の高位令嬢も尻込みしていたみたいです。今は王位継承権第2位の方に人気が集まっているらしいですよ」

「王位継承権第2位の方?」

「現国王の弟のご子息らしいです。つまり王太子様の従兄弟(いとこ)ですね。歳も同い年だそうです。王弟はすでにお亡くなりになっていて、そのご子息が跡を継ぎ、若くして公爵家の当主を務められているとか。王太子様の一番の側近でもあるみたいです」

「へぇ、そんな方がいるのね。側近だったらお会いする機会もあるかもしれないわね」


私が知っていたのは婚姻相手が王太子様だということと、側妃を寵愛していることくらいだったので、目新しい情報も多かった。

知ったところで扱いは変わらないだろうと思い、あまり興味を持てなかったのだ。

 ……とりあえず、どうしようもないボンクラ王太子というわけではなさそうね。あくまで形だけの婚約者に徹して、寵愛を求めない姿勢を貫き、側妃の気分を害さないようにしないとね。


女の嫉妬は怖い。

それだけ愛されているという側妃とは極力関わらないようにしたいところだ。

その側妃が早く懐妊してくれれば、将来的に火種のもとになるからと私は子作りを拒否することもできる気がする。

そんなことをツラツラと考えていると、ようやく目的地であるユルラシア王国の王宮に到着した。

王宮も荘厳で立派な建物であり、一見しただけでその広大さが見て取れる。

門の前には隣国の王女を迎えるべく王宮で働く人々が一列に並び恭しくお辞儀をしていた。

ベールを顔に覆い馬車から降りると、四方八方からヒシヒシと探るような視線が突き刺さる。

その視線と自国とは比べ物にならない王宮の壮大さに萎縮しそうになるが、私はお腹に力を込め、背筋を伸ばし、隣国の王女として相応しい堂々とした振る舞いを必死で心掛けた。

「ようこそ、ユルラシア王国へお越しくださいました。まずは王女殿下のお部屋へご案内いたします」

王太子の側近の1人だという侯爵子息アランに先導され、迷ってしまいそうな広さの王宮内を歩く。

私の居住スペースとなるのは、王宮内にある離宮のようだ。

説明によると、側妃にも別の離宮が与えられており、王太子は本殿に自室があるにも関わらず、ほぼその離宮に通い詰めだという。

「ですので、そちらの離宮には近寄らぬ方がよろしいかと。お二人の時間を妨げるとエドワード王太子のご不興を買いますので」

「分かったわ」
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