人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる
それなのに、当のアリシア様はエドワード様の興味が自分に向くとはつゆ程も想像していない。

自分が女性として見られることはないと(はな)から思っているようだ。

 ……というか、アリシア様は自分の魅力を分かっていないのだろうな。

ふと先日の出来事を思い出す。

今後も王宮を抜け出すことに目を瞑ると約束すれば、目をキラキラさせて弾けんばかりの満面の笑みを私に向けてきたのだ。

自分がアリシア様に懸想していることを自覚した直後にあの笑みを見せられ、平然を保つのに苦労したのは記憶に新しい。

それにやたらと私の目をじっと見つめてくるし、私の役に立ちたいと言ってくるし、アリシア様も私を想ってくださっているのではと勘違いしそうになることが多々あった。

まさか自分が男から愛されるようなことは起こり得ないと高を括っているから、無意識にそんなことができるのだろう。

 ……アリシア様は自分のことをもう少し自覚すべきだ。それこそ容姿なんて分からなかった頃から私の心を乱していたのだから。

普通だったら側妃とのお茶会で怒りや悲しみに暮れていてもおかしくないのに、至って穏やかなアリシア様に、私は少し警告するような気持ちで口を開く。

側妃の発言の中でこれだけは訂正しておいた方がいいだろうと思うものがあったからだ。

「一つだけ言わせてください。女は美貌がなければ男を虜にできないと側妃に言われたそうですが、それは完全なる誤りですね。……どんなに容姿の整った女にも興味がないのに、顔を知らない人に惹かれるということもありますよ。私の経験談です」

アリシア様がエドワード様の婚約者で、私がエドワード様の側近である立場上、決して自分の想いを告げることは許されない。

私の想いはこの先成就することはないものだ。

それを頭ではしっかり理解しているのだが、一方で愛されるはずがないと諦めているアリシア様に私の想いを知って欲しい衝動に駆られる。

だから婉曲に、あくまで経験談として、分からない程度に自分の気持ちを織り交ぜた。

これが私に許される精一杯だった。



◇◇◇

「ああ、もうこんな時期か」

「一年なんて本当にあっという間だよね」

執務室で机に向かう私とアランは手元に届いた招待状を目にして、思わず声を上げだ。

それは毎年恒例の王宮主催の舞踏会の案内だった。

毎年この時期に王宮で盛大に催される舞踏会は、ほぼ国中の全貴族が集まると言っても過言ではないほどの大規模で華やかなものだ。

この舞踏会については他の王宮務めの高官が取り仕切っており私も関わっておらず、招待状を見てその存在を思い出した。
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