人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる
「……ノランド辺境伯か。久しいな」

「久しぶりですな。私からは何度も手紙を差し上げましたが、フラれてばかりですからな」

ノランド辺境伯は私が無視している手紙についてあえて触れてきた。

このような人気のないところで接触してくるあたり、何か意図があるのだろう。

やっとしつこい女たちを振り切ったと思えば、次は警戒対象者と対峙しなければならないとは、全く気の休まる時間がない。

私は言質を取られないように口をつぐみ、視線だけを彼に向けた。

「先程のダンス拝見しましたぞ。アリシア王女殿下と踊られるとは驚きました。お親しいのです?」

「エドワード様のご婚約者であるし、側近として接する機会も多いからな」

「さようですか。だが、聞くところによると王太子殿下はずいぶんとあの王女殿下を蔑ろにしているらしいですな。先程ブライトウェル公爵が踊られたのも、王太子殿下が気にかけておられない様子を見かねてフォローなさったのでは?」

実際はフォローというより腹が立ったのがキッカケであり、私自身がアリシア様と踊りたかっただけというのが本音だ。

とはいえ、私の想いを知らない第三者から見ればそのようにあの状況は写っていたらしい。

「政務もブライトウェル公爵が王太子殿下の肩代わりをされているとか。一方で王太子殿下は側妃の離宮に籠もりきりらしいですな」

「……何が言いたい?」

「いえ、まあブライトウェル公爵はずいぶんとご苦労されているのだろうと心配しているのですよ」

「それはご心配どうも」

「ご自分は政務を押し付けられ大変な思いをされているのに、王太子殿下は女に夢中……となるとさすがのブライトウェル公爵も思うところがあるのでは? ご不満もありましょうぞ?」

そこで言葉を切ると、ノランド辺境伯は探るような鋭い目を私に向けてきた。

明らかに王家への反感を持っている言葉だが、まだ決定的なものではない。

気持ちを押し測っただけで私はそのようなことは思っていない、と何とでも言い逃れできるレベルだ。

 ……思うところや不満、か。

その言葉に先程アリシア様とダンスをしていた時に感じたエドワード様に対する羨望と嫉妬を思い出す。

あれは詰まるところ、エドワード様への不満と言えなくもないだろう。

私が先程の出来事を脳裏に描き、わずかに眉を動かしたのを見て、ノランド辺境伯は何か確信を得たのかもしれない。

視線に熱がこもり、真剣さを帯びてくる。

「今の王族は腐り切っているとブライトウェル公爵も心の底ではお思いなのでは? 公爵ほどの能力と実力がおありなら、王位を簒奪(さんだつ)されたらいい。その方がみんなが幸せになると思いますな。もちろん助力は惜しみませんぞ」

そしてついにノランド辺境伯は、決定的なことを述べたのだ。

王位簒奪、つまりは反乱の意思を見せたのだ。
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