人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる
ロイドのリードは実に上手く、踊り慣れていない私でもとても踊りやすい。

最初はものすごい注目を浴びていたから少し緊張していたのだが、だんだんと人々の視線も忘れて、私はダンスに夢中になった。

こんな華やかで煌びやかな場で自分が踊っているなんて、リスベルト王国にいた時では考えられない。

「舞踏会で踊っているなんて夢みたい。昔憧れていたの。だからロイド、誘ってくれて本当にありがとう。とても嬉しかったわ」

このような機会を与えてくれた感謝の気持ちが溢れてきて、間近にあるロイドの顔を見上げながら、私は想いを率直に口にした。

私の言葉を聞いて、ロイドの美しい顔に微笑みが浮かぶ。

握られていた手にも力がこもり、まるで「私も嬉しいですよ」と言われているようだった。

ちょうど一曲目が終わり、続けて私たちは二曲目も一緒に踊ることになった。

ロイドも今この瞬間を楽しんでくれているのかと思うと嬉しくなる。

「ふふっ。楽しいわね。人前でこんなに堂々と楽しんでいるのなんて本当に初めてだわ」

テンポが早くなった曲に合わせてステップを踏みつつ、私は心の底からこの時間を楽しんでいた。

先程の曲よりも相手との距離が近くなり、ロイドに包まれているような感覚に陥った私の心臓はさらに弾むように音を奏でる。

苦しいほどドキドキするのに、それは全然嫌なものではなくて、甘さすらある。

 ……さっきからこのドキドキが止まらないわ。もしかして、これって……噂に聞く異性に対する胸のトキメキかしら?

ふとそう思い至って思わずロイドを見上げれば、ベール越しに目が合った。

それによってまた胸の鼓動が飛び跳ねる。

体も火照ってしょうがない。

前世も含めて今まで恋をした経験はなかったが、これがそうだということは本能で感じた。

なにしろ二曲目が終わりに近づいている今、ロイドともっとこうして踊っていたい、彼に触れていたいという気持ちが止まらない。

同じ相手と三曲踊ること、それは婚約者か夫婦にしか許されないことだ。

私にはその資格はないということを頭ではちゃんと分かっているのに。

 ……エドワード殿下との婚姻まで残り数ヶ月。そんな時にロイドへの恋心を自覚してしまうなんて……。

いくら想いが芽生えたからといっても、この恋が成就することはない――ずっと秘めていく必要があるものだ。

ロイドはエドワード殿下の側近であり、公爵家の当主であり、この国の王位継承者第2位の人だ。

対して私はあと数ヶ月もすれば王太子妃。

これから先も臣下として近い立場で絶対に関わりがある。

 ……つまり、ロイドが妻を娶るのも見届けることになるのでしょうね。

家の継承のためにも公爵家の当主であるロイドが結婚しないということはないだろう。

となれば、これからも王太子妃と王太子の側近として関係が続くからには、その場面に直面することは容易に想像ができた。
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