人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる
「心配しなくて大丈夫です。もちろんアリシア様と公爵である私ではなく、ただの町娘シアと平民に扮した私、という意味です」
「平民に扮したって、ロイドが変装するの?」
「ええ、さすがに平民の祭りですから」
どうやらお忍びで行くらしい――アリシアとロイドではなく別人として。
……シアには婚約者はいないものね。別人だったら出掛けてもいい、わよね?
別人になりすますとはいえ、実態は私たちであることに変わりない。
そんなことは分かっているが、別人だという建前を作った今、好きな人と出掛けたい気持ちが優ってしまう。
……正式な婚姻までの最後の思い出作りくらい、許されたっていいわよね? またほんのひとときだけ魔法にかけられて夢のような時間を過ごしてみたい……!
不思議なもので、ロイドへの想いを自覚してからというものの、私は欲深くなってしまったようだ。
会いたい、声が聞きたい、触れたい、一緒に出掛けたい……と望むことが増えている。
今回もそうだ。
なんとも魅力的な申し出につい心がグラリと揺れて、都合良く作り上げた建前に縋りつこうとしている。
「……ぜひ行きたいわ。シアとして」
頭ではダメなことだと理解しているのに、結局私は誘惑に負けて頷いていた。
こうして私たちは、バラ祭りの日にフォルトゥナ前で待ち合わせて一緒にお祭りに行く約束をしたのだった。
そしてお祭りの日――。
私はいつも通りライラに協力してもらって王宮を抜け出し、昼営業前のフォルトゥナの店の前に立ちロイドを待つ。
服装は平民が着ているシンプルなワンピース姿だ。
もちろんベールは外していて、ロイドとライラ以外は私が王女だとは誰も知らない。
今日はフォルトゥナのアルバイトはできないと伝えてあるのだが、最近は新しい店員が順調に育っているようで昼営業もずいぶん余裕ができてきたそうだ。
私は入れる日しか働かない腰掛けアルバイトで、集客手法を伝授したゆえの名誉店員みたいな扱いである。
月に数回しか働いていないものの、エドガーさんとミアのことは大好きだし、常連客にもよくしてもらってるし、私にとってとても居心地の良い大切な場所だった。
……でももうあと片手で数えられるくらいしかここにも来れないでしょうね……。
最初から期限があることは分かっていたけど、いよいよその期限が迫ってきた今、寂しい気持ちは止められない。
目に焼きつけるようにフォルトゥナをじっと見つめていたその時、ふいに私の名前を呼ぶ声がした。
耳触りの良い声に私は聞こえてきた方を振り向く。
そこにはいつもの上質な布地に刺繍が施された貴族らしい服装ではなく、動きやすさを重視した簡素な服に身を包んだロイドが佇んでいた。
「平民に扮したって、ロイドが変装するの?」
「ええ、さすがに平民の祭りですから」
どうやらお忍びで行くらしい――アリシアとロイドではなく別人として。
……シアには婚約者はいないものね。別人だったら出掛けてもいい、わよね?
別人になりすますとはいえ、実態は私たちであることに変わりない。
そんなことは分かっているが、別人だという建前を作った今、好きな人と出掛けたい気持ちが優ってしまう。
……正式な婚姻までの最後の思い出作りくらい、許されたっていいわよね? またほんのひとときだけ魔法にかけられて夢のような時間を過ごしてみたい……!
不思議なもので、ロイドへの想いを自覚してからというものの、私は欲深くなってしまったようだ。
会いたい、声が聞きたい、触れたい、一緒に出掛けたい……と望むことが増えている。
今回もそうだ。
なんとも魅力的な申し出につい心がグラリと揺れて、都合良く作り上げた建前に縋りつこうとしている。
「……ぜひ行きたいわ。シアとして」
頭ではダメなことだと理解しているのに、結局私は誘惑に負けて頷いていた。
こうして私たちは、バラ祭りの日にフォルトゥナ前で待ち合わせて一緒にお祭りに行く約束をしたのだった。
そしてお祭りの日――。
私はいつも通りライラに協力してもらって王宮を抜け出し、昼営業前のフォルトゥナの店の前に立ちロイドを待つ。
服装は平民が着ているシンプルなワンピース姿だ。
もちろんベールは外していて、ロイドとライラ以外は私が王女だとは誰も知らない。
今日はフォルトゥナのアルバイトはできないと伝えてあるのだが、最近は新しい店員が順調に育っているようで昼営業もずいぶん余裕ができてきたそうだ。
私は入れる日しか働かない腰掛けアルバイトで、集客手法を伝授したゆえの名誉店員みたいな扱いである。
月に数回しか働いていないものの、エドガーさんとミアのことは大好きだし、常連客にもよくしてもらってるし、私にとってとても居心地の良い大切な場所だった。
……でももうあと片手で数えられるくらいしかここにも来れないでしょうね……。
最初から期限があることは分かっていたけど、いよいよその期限が迫ってきた今、寂しい気持ちは止められない。
目に焼きつけるようにフォルトゥナをじっと見つめていたその時、ふいに私の名前を呼ぶ声がした。
耳触りの良い声に私は聞こえてきた方を振り向く。
そこにはいつもの上質な布地に刺繍が施された貴族らしい服装ではなく、動きやすさを重視した簡素な服に身を包んだロイドが佇んでいた。