人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる
こんなシンプルな服装をしていても、ロイドの美貌は変わらない。

むしろそれゆえに引き立っているようだ。

 ……それにしても、あの髪はどうなっているの?

ロイドの普段の髪色は艶やかな黒色なのだが、今日の彼の髪色は瞳と同じ赤色をしていたのだ。

「ロイ……」

その理由を聞こうと名前を呼びかけて、慌てて私は口をつぐむ。

そういえば今日の私たちは別人だったのだと思い出した。

そんな私を見てロイドは楽しそうに口角に笑みを浮かべる。

「私のことは今日はルイズと呼んでください」

「ルイズ?」

「ええ、亡くなった父の名前です。偽名を名乗る時によく使っているんですよ」

「そうなのね、分かったわ」

今日の私たちはシアとルイズということだ。

私の顔は知られていないし、ロイドも髪色まで変えて変装しているから、仮に貴族に遭遇しても気づかれないだろう。

「ところでルイズ、その髪は一体どうなっているの?」

「髪の色の印象は大きいですからね。当家に伝わる秘伝を使って変えてみました」

「すごいわね、全然別人みたいだわ」

私たちはコソコソと小声で話しながら、乗り合い馬車の停留所へ向かう。

平民の私たちは、王宮や公爵家の馬車ではなく、あくまでも平民の使う手段でブルネットに向かうのだ。

ちなみに今日は特別に護衛もいない。

身分を隠して別人になっている完全なお忍びだし、行く場所も平民ばかりのところだし、そしてロイドも武術の心得があり私も護身術が使えるからだ。

だからこの場は本当に私とロイドの2人きりだった。

 ……まるでデートみたい。いいえ、まるでといえより、まるっきりデートよね。

一度そんなふうに考えてしまうと、妙に意識してしまって、なんだかこそばゆくてソワソワしてしまう。

ロイドはいつも通りに私に対して丁寧な口調だけど、名前は「シア」と呼び捨てだ。

平民同士で様付けで呼び合わないからだ。

そう呼ばれるのも新鮮でドキドキした。

いや、呼び方だけではない――結局のところ私は隣にロイドがいるということだけでトキメキを止められないのだ。
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