人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる
そんな状態で乗り合い馬車に揺られること1時間少々。

ようやく目的地であるブルネットに到着した。

馬車を降りた瞬間、甘く優雅なバラの香りがふわりと香って鼻を掠めた。

お祭りに際し多くの出店でバラを売っていて、身につけている人も多いようだ。

賑やかな雰囲気が漂っていて、その場にいるだけで私もワクワクしてくる。

「あちらの方でパレードがちょうど始まるようですよ。行ってみましょうか?」

「ええ! 楽しみだわ!」

ニッコリ笑って背の高いロイドを見上げれば、彼はなぜだか眩しそうに目を細めた。

逆光だったかなと思って背後を一瞬振り返ったその時だ。

ふいに右手に何かが触れるような感じがした後、温かいものに包まれた。

驚いて自分の右手に目をやれば、手に触れていたのはロイドの左手だった。

そう、手を握られていたのだ。

そしてそのまま私の手を引いて、ロイドは歩き出す。

「ル、ルイズ……?」

「平民はこうやってエスコートするらしいですよ。人も多いですしはぐれないでくださいね」

貴族のエスコートは、男性が手のひらを上に向けるようにして差し出し女性が軽く上に乗せる形か、男性の腕に手を添える形かのどちらかが基本だ。

つまり手を握ることはない。

ふと辺りを見渡せば、確かに周囲の男女の何割かは仲睦まじく手を握り合っている。

 ……ということは、ロイドの言うようにこれが平民流のエスコートなのかしら。貴族よりも、なんていうか距離が近いのね。

その男女たちは恋人同士だということなどつゆ知らず、私は周囲の様子から納得を得ると、動揺していた気持ちを落ち着かせた。

だが、動揺は消え失せても、鼓動の早さだけは制御することはできない。

全神経が繋いだ手に集中し、じんわりと汗ばんできてしまう。

こんなに汗をかいた手を握っていてロイドは不快に感じないかなと心配になってきてしまった。

ちょうどその時、一際賑やかな音が鳴り響いてきて、バラのモチーフの衣装に身を包んだ人々のパレードが目の前を通る。

家にあるような調理道具を楽器に見立てて音を奏でているようだ。

バラのモチーフというのも人それぞれで、刺繍で表現している人、生花を纏っている人、バラのように見える何かを創作している人と、実に個性的で面白い。

一気に目を奪われた私は、手汗のことからスッカリ意識を飛ばして、目の前のパレードに夢中になった。

もちろんその間も手はつないだままだった。
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