人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる
「初めてあのようなめちゃくちゃなダンスを踊りましたが、なかなか楽しいものですね」

一曲を踊り終えた私たちは、元いた場所へ戻って一休みする。

舞踏会で踊るダンス以上に体を動かしたから息が上がっていた。

気付けば辺りは暗くなっていて、夜が深まってきている。

暗闇を照らすため、バラに燃え移らないよう配慮されながらいつの間にか松明(たいまつ)が複数灯されていた。

「そろそろ帰らなければなりませんね」

「そうね」

あまり遅くなると王宮に戻るのに苦労するし、一日中部屋で影武者をしてくれているライラにも申し訳ない。

私たちは呼吸を整えると、その場を立ち上がった。

もう帰る時間なのだと思うと寂しさが込み上げてくる。

「……もう魔法が解ける時間なのね。ルイズ、お祭りに連れて来てくれて本当にありがとう。とても楽しかったわ」

「私も楽しかったですよ」

「今回はベールを付けていない状態でルイズと踊れたわね」

「そうですね。やはりお互いの顔を見て踊れる方が良いですね」

「ふふっ、私もそう思ったわ。……叶うならば、アリシアとロイドとして素顔で三曲連続踊ってみたいものだわ」

最後にポロリと本音がこぼれ落ちた。

素顔で踊るのは、私がエドワード殿下と結婚した後であれば機会はあるかもしれない。

でも三曲連続で踊るなんて日は永遠に訪れることはないだろう。

あれは婚約者か夫婦という特別な相手としか無理なのだから。

そこではたと自分の致命的なミスに気付く。

 ……え、私の台詞ってロイドを好きって告白してるのとほぼ一緒じゃない⁉︎

なんてことを言ってしまったのだと血の気が引いていく。

慌てて取り繕おうとしたら、ロイドは聞こえるか聞こえないかくらいの声で何かを小さく呟いた。

「アリシア様……」

それは私の名前だった。

しかも今この瞬間までロイドは徹底して「シア」と私を呼んでいて一度も間違えることがなかったのに。

そして何を思ったのか突然その場に跪く。

まるで舞踏会の時にダンスを申し込まれた時のように片膝をついた状態で私を見上げた。

「ロイド……?」

そのただならぬ雰囲気に、私も思わずルイズという偽名ではなく、本名で呼びかけてしまった。

「私は自分勝手な人間なので、今のお言葉、自分の良いように解釈させてもらいます。その上で、今から私は独り言を言います。あくまで独り言なので返答はいりません」

私が困らないよう予防線を張ると、ロイドは私の目を見つめてゆっくりと口を開いた。

《《独り言》》を言うために。

「……その願い、必ず叶えます。私も心から望んでいることなので」

ロイドは大きな独り言を述べると、片膝をついたまま、今度は両手で(うやうや)しく私のスカートの裾を手に取る。

そしてそこにそっと口づけを落とした。

「……!」

声にならない声が唇から漏れる。

体に触れられたわけではないのに、全身が熱く火照ってきて、今の私はきっと恥ずかしさで真っ赤な顔をしていることだろう。

まるで求愛するようなロイドの行動と言葉に、今まで感じたことのないような喜びとトキメキが胸を駆け巡った。

 ……もしかして、ロイドも私と同じ気持ちなの……? そう思っていいの……?


スカートから唇を離したロイドは、再び私を見上げる。

その瞳には恋い慕う気持ちと決意が滲み出しているようだった。
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