人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる
 ……婚姻まで残り1ヶ月半。ロイドへの想いにちゃんと折り合いをつけて、婚姻に向けて心の準備をしなきゃね。

好きな気持ちを完全に無くすことは難しいのかもしれない。

だけどせめて欲深くなる気持ちだけは抑えられるようにならなければと思う。

あの幸せな思い出だけを胸に、あの瞬間だけはロイドも私を想っていてくれたと思ってそれで満足するべきなのだ。

どうしたって私とロイドが結ばれることはないのだから。

きっと冷静沈着なロイドはこれが不毛なことだと判断して、早めに私と距離を取るようにしたのだろう。

そう考えれば、あの後から姿を現さなくなったロイドの行動の意味に納得がいった。

それを決して責めるつもりはないし、そんな権利は私にはない。


また意識が自分の思考の中に飛んでいて、そんなことをつらつらと考え込んでいたら、ふと護衛が立つ部屋の入り口の方から物音がした。

なにやら護衛と誰かの話す声がわずかに聞こえてくる。

「外が騒がしいですね。来客でしょうか?」

「来客の予定なんてないわよ。それに来客であれば侍女のライラに護衛から取り次ぎの声がかかるわよね?」

「そうですよね。でも気になるので少し様子を見てまいりますね」

「分かったわ。お願いね」

ライラはスッと部屋を出て行き、その後ろ姿を見送ると私は手元にあった本を開いた。

あまりにもぼーっとしすぎているから、本でも読んで何かに意識を集中させようと思ったのだ。

広い寝室内の日当たりの良いソファー席で、私はのんびり寛ぎながら本のページを巡り視線を下ろした。

その時だ。

「お待ちくださいませ……!」

ライラの控えめにすがるような声が耳に飛び込んできたのと同時に、バタバタとこちらへ近づいてくる足音が聞こえ、次の瞬間には寝室の扉が勢いよく開かれた。

仮にも王女である私の寝室がこのようにいきなり開けられることなど予想外で、私は驚いて本から顔を上げて扉の方に視線を向ける。

するとそこには顔を合わせるのは三度目である婚約者の姿があった。

そう、この国の王太子・エドワード殿下だったのだ。
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