人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる
ライラに手伝ってもらい、言葉通りに30分で謁見用の豪華なドレスに着替えた私は、再びアランに案内されて王太子の執務室へ向かう。

執務室は王宮本殿の中枢にあり、このあたりは離宮周辺と違い、王宮勤めの貴族たちが多い。

話だけは耳にしているのだろう、皆一様にジロジロと私を無遠慮に眺めてきた。


「こちらが王太子殿下の執務室です。では中へご案内いたします」

コンコンコンという3回の軽いノックののち、アランが扉を開けて中へ入る。

中から扉を押さえて、迎え入れるように誘導され、私も続いて執務室内へ足を踏み入れた。

中には数人の男性がいたが、大きな執務机にドカリと座っている中心人物こそが、婚約者である王太子だろうということはすぐに分かった。

私の入室に気付くと皆が手を止めて、王太子の側に控えるよう背後に立つ。

私は執務机の側まで近寄り、その場で王女らしい振る舞いで片足を後ろに引き膝を曲げてカーテシーをした。


「はじめまして。リズベルト王国王女のアリシア・リズベルトと申します。エドワード殿下にお目にかかれ光栄でございます」

「ああ、遠いところよく来た。私が王太子のエドワード・ユルラシアだ」

「これからどうぞよろしくお願い致します」

「聞いていると思うが、私たちの婚姻は1年後だ。それまでは婚約者として扱うので、そのつもりでいてくれ」

「はい。承知いたしております」

王太子であるエドワード殿下は、確かにライラが仕入れた情報通りに見目麗しい青年だった。

赤茶色の髪に、赤い瞳という色彩のせいか、燃えるような炎を連想させるような人だ。

堂々とした口ぶりからは命令をし慣れた上位者の雰囲気を伺わせる。

苦手だった前世の職場の社長をなんとなく彷彿とさせ、初対面なのに嫌悪感が押し寄せた。

「あと、これも承知のこととは思うが、私には愛する側妃がすでにいる。君とはあくまで両国の和平のための政治的な婚姻だ。私からの寵を与えるつもりはない。くれぐれも言動は弁えてくれ」

「もちろんでございます」


最初の挨拶に続き、次に発せられた言葉は案の定、側妃のことだ。

やはりエドワード殿下が側妃に夢中という情報は紛れもない事実なのだと思った。

愛されることのない形だけの婚約者ということは重々に理解していたので、なんの感慨もなく素直に頷く。
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