人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる
「君は……」

寝室の扉を開けて中を覗き込んだエドワード殿下は、私の姿を認めると目を大きく見開き呆気に取られたような顔で立ち尽くしている。

その視線が顔に集中していることを感じ、自分が今ベールを外している状態だということに気づいた。

 ……うそ、エドワード殿下に見られちゃった!

まさか来客が許可なく寝室まで入り込んでくるとは思ってもみなかったから、完全に無防備だったのだ。

エドワード殿下は、ライラや殿下の従者に「入ってくるな」と告げると扉をバタンと完全に閉めた。

密室で2人きりになってしまったが、婚約者であれば許されるため、これは別に無作法にはならない。

こちらへ近づいてくるエドワード殿下に、なんとなく身を硬くして、私は無言を貫いた。

「まさか君がこんなに美しかったなんて。予想外にもほどがあるではないか! なぜ隠していたというのだ。皆、君は醜い容貌だと思っているのだぞ?」

エドワード殿下はソファーに座る私の隣に腰を下ろすと、今まで見たこともないくらい甘やかな顔を私に向けてきた。

顔だけでなく声までむせ返るように甘ったるい。

「本当に美しい。そのハニーブロンドの髪も、透き通るように白い肌も、海のように澄んだ瞳も、果物のように色づいた赤い唇も。すべてが完璧に君は美しい」

熱のこもった瞳で見つめられ、気持ち悪くてしょうがない。

顔を見ただけでこの態度の変わりようにはひどすぎないだろうか。

エドワード殿下がいかに女性の容姿しか気にしていないのかがよく分かる。

「……ところで、今日はいきなりどうなさったのですか? 取り次ぎもなく、寝室まで来られたので驚いているのですが」

甘い言葉で詰め寄ってくるエドワード殿下から離れたくて、私は用件を問う。

やんわり寝室にいきなり来た無作法も指摘した。

「私たちは婚約者であり、あと1ヶ月半もすれば夫婦ではないか。それに私はこの国の王太子だ。私が行きたいところならば許可など必要ないだろう? 父上が不在の今、私がこの国の最高権力者なのだからな」

「それでもまだ婚約者ですし、女性の寝室です。私が驚く気持ちも分かって頂きたいのです。それでご用件はなんでしょうか?」

「恥じらうなんて君は初々しいところもあるのだな。マティルデにはその可愛らしさはもう感じられないから新鮮だ」
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