人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる
言葉を一度切ったアランは、その時のことを脳裏で思い出しているに違いない。

思いっきり顔を顰めて言葉を続ける。

「”父上がもう長くないというのは残念ではあるが、つまりそれは私がこの国の最高権力者になるということだな。これからはなんでも私の思い通りというわけか。王族が減ってしまうからより一層子作りに私が励まねばな” って言ったんだよ」

陛下のご容態を悼むでもなく、次期王としての自覚が芽生えるでもなく、頭にあるのは変わらず側妃との愛欲の日々だけ。

立場に応じた責務は放り投げ、特権だけを享受するつもりらしい発言に、開いた口が塞がらなかったらしい。

アランが敬愛する国王を軽視するような部分も許せないと感じたのではないかと思う。

「でも僕が側近を抜けるとロイドにかなり皺寄せがいくよね。今でもロイドに相当な負担がかかってるのは分かってるからさ……」

今すぐにでも任を降りたいと言わんばかりの面持ちをしたアランはどうやら私のことを気にしてくれていたらしい。

ここまでアランの話を聞く方に徹していた私は、酒をグッと飲み干すとここで一か八かの賭けにでる。

アランを見据えて、慎重に口を開いた。


「……アラン、数ヶ月だけこのまま側近に留まってくれないか? そして私がこれからやろうとしていることに手を貸してくれると嬉しい」

「炊き出しみたいに、また何か新しいことを計画してるってこと?」

「新しいことと言うか……反乱だ」

「はっ……⁉︎」

アランは目を剥いて絶句してしまっている。

それも無理もない反応だろう。

なにしろ数ヶ月前までは、反乱を危惧して手を打たなければと私自身がそれを止めようとしていた立場なのだから。

 ……人生どうなるか分からないものだな。アリシア様と出会わなければ、私が反乱に加わる決断をすることはなかっただろうな。


アリシア様とバラ祭りに出掛けたあの日。

アリシア様がポロリと溢した本音を耳にして、私は心を決めたのだ。

なんとしてでもアリシア様の願いを叶えてみせる――と。

――「叶うならば、アリシアとロイドとして素顔で三曲連続踊ってみたいものだわ」

絶対に無理なことだと頭で分かっているのに心で願ってしまった……というように切なげな表情で呟いたアリシア様の顔が脳裏に焼き付いて離れない。

いつも何も望まないアリシア様が願ったことだからこそ、叶えて差し上げたいのだ。

私と同じ気持ちを抱いてくださっていると分かっても、ハッキリと言葉にすることも、触れることも許されない己の立場がもどかしかった。
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