人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる
呆れて物も言えないとはこのことだ。

美しい私と踊りたいでしょう?と言わんばかりの台詞に唖然とする。

言い返すのも馬鹿馬鹿しくて私は口をつぐんだ。

言葉を発するのさえ煩わしくて、こんな女のために余計な労力を使いたくなかった。

 ……ただでさえこの1ヶ月半、アリシア様に会えていなくて精神的に参っているというのに。

私がはぁと大きなため息を吐き出したちょうどその時、待ち人であるエドワード様が姿を現した。

当たり前のようにマティルデ様の隣に身を寄せて座り、肩に腕を回したエドワード様は「また決裁か?」と面倒そうな顔をして私に尋ねた。

政務の間はマティルデ様には席を外してもらいたいのだが、一向にその様子がないため、重要案件がなかったことをいいことに、私はその場で書類を差し出した。

深いため息とともに眉を寄せたエドワード様は、内容に目も通さず、私に要約を聞きもせず、ひたすらサインだけをしていく。

その様子を見ているフリをしながら、私は側妃の離宮の間取りや人員配置についてひっそり視線を巡らせていた。

役割分担で振られた私の役目は、エドワード様周辺の動きの確認だったのだ。

 ……やはり人員配置は先日と同じだな。それにほぼエドワード様はマティルデ様と一緒にここにいるから、攻め入るのはこの離宮のみで済むだろうな。2人まとめて一気に拘束できそうだ。

王族を拘束するという点において、その2人がべったりいつも一緒にいるというのは大変に都合が良いことだった。

一直線にこの離宮を押さえれば良いのだから、王宮に被害もあまり出さずに済むだろう。

「これでサインはすべて終わった。もう用はないであろう?」

「ええ、ありがとうございました。これで失礼いたします」

私は一礼してさっさとその場をあとにする。

側妃の離宮を訪れて得た確信は書簡にしたためて、秘密裏にノランド辺境伯へ使いを出した。

それから数日後のことだった。

私のもとに2つの連絡がほぼ同時に入る。

一つは、目標戦力が集まりいつでも決行が可能な状態だというノランド辺境伯からの報告。

そしてもう一つは、叔父である国王陛下の崩御(ほうぎょ)の知らせだ。

 ……陛下がついにお亡くなりに……。息子であるエドワード様が陛下の築いてこられたこの国を顧みない今、陛下の意志を継ぎ、国の安寧を築けるのは私しかいない。
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