人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる
寵愛を与えないと釘を刺された後に続いて問いかけられたのは、私が被るベールについてだった。

これも想定内だったため、私はあらかじめ考えておいた嘘をスラスラと述べる。

私が話す内容を聞きながら、エドワード殿下やその背後にいる一部の側近たちの顔が蔑むものになっていたことには気付いた。

おそらく私の自国での評判を耳にしているのだろう。

それでもエドワード殿下からベールを付けたままでもいいと許可を得られたことに私は大変な満足をしていた。

 ……これでまた自由に城を抜け出せるわ!

これで少なくとも1年は、私にとって人質生活という名の自由気ままな生活が保障されたも同然だった。

その後、一言二言だけ会話を交わし、サッサとその場を辞した私は、ユルラシア王国が付けてくれた護衛を伴い自室へ戻る。

これでこれ以降はおそらくエドワード殿下とはほとんど顔を合わせる機会はないだろう。

下手したら次は1年後の結婚式かもしれない。

パートナー同伴のような場には寵妃として知られる側妃を伴うだろうから、私は本当にここで心安らかな人質生活を大人しく過ごすだけなのだ。


「アリシア様、ご機嫌ですね。そんなに王太子様は素敵な方だったんですか?」

「ええ! 1年後の婚姻までベールを付けていても良いと認めてくださったわ! 話の分かる方でしょう?」

自室に戻るやいなや、紅茶を淹れて待っていてくれたライラに先程の出来事を報告する。

特にこれで1年は自由だと言うことに喜び震えながら語った。


「はぁ。アリシア様のご機嫌の理由はそういうことですね。ということは、これまで通りに私も協力するということですね?」

「もちろんよ! 頼りにしているわ! さて、いつから始めようかしら? 自国みたいに私に直接突っかかってくる人もいないし本当に気が楽だわ」

「せめてここでの生活に慣れてからにしてくださいね?」

「それもそうね。もう少し王宮内のことや城下のことを色々知ってからじゃないとね」


注意を促すライラに同意しながら、私はライラが淹れてくれた香り高い紅茶に口をつける。

上品で芳醇な香りと豊かな風味に、ここまでの長旅の疲れが癒やされるような心地がした。

ライラと話しながらすっかり寛いでいたら、ふいに部屋の扉がノックされる。

ここを訪ねてくるような人の心当たりがなく、私もライラも首を傾げていたが、ライラが素早く立ち上がり扉の方へ向かった。

しばらくすると、扉の前にいる護衛から訪問者と用件を聞いて戻ってきた。

「王太子様の側近のブライトウェル公爵だそうです。アリシア様にご報告があるとか。どうされます? お会いになります?」

「ブライトウェル公爵?」

「ほら、あれですよ。馬車の中で話した王位継承権第2位の王太子様の従兄弟ですよ」
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