人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる
それからどれくらい時が経ったのだろう。

いきなり聞こえてくる騒がしさが間近に迫ってきて、扉前の護衛が声を荒げるのが耳に飛び込んできた。

「……いよいよこの離宮にも反乱軍が迫り来たようですね」

「ええ、そうね……」

「いいですね? 私がアリシア様のフリをしますので、アリシア様はここに身を潜めていてください」

ライラは急いでベールを顔に付けると、私を寝室に併設された衣装部屋の中へ押し込む。

ドレスとドレスに挟まれて私の姿はたちまち埋もれるように見えなくなってしまい、視界は真っ暗に塞がれた。

「ライラ……」

私たちはてっきり反乱軍が隣国の王女である私の身を拘束しに来たのだろうとこの時思っていた。

目的の人物である王女さえ拘束すれば、反乱軍はすぐに引き揚げて行くと考えていたのだ。

だからライラは王女の影武者になり、張本人の私はこの場に身を隠したわけなのだが、この私たちの行動は結果的に悪手となった。

なぜなら反乱軍がここに来たのは別の目的だったからだ。

「エドワード王太子殿下はおられるかっ!」
「隠れ立てされず出て来られよ!」

寝室の扉が乱暴に開かれ、続々と中へ入って来る武装した男たちは、口々にエドワード殿下の名前を口にしていた。

「あなたがアリシア王女殿下ですね。王太子殿下はこちらへ来られていませんか? もし匿っておられたら罪になりますよ。正直に仰ってください」

王女になりすましたライラへ詰問するような声が聞こえてくる。

ライラは控えめに声を出しながら「先程ここを出て行かれました。本当です」と答えているようだった。

その後、ライラの声は聞こえなくなった。

どうやら反乱軍に連れて行かれてしまったようだ。

 ……目的は私の拘束ではなく、エドワード殿下の身柄を探しているということかしら? ライラが連れて行かれてしまったようだけど、どうか無事でいて……!

こっそり耳を澄ませながら聞こえてくるわずかな声の情報をもとに状況を推測していたその時だ。

念のため部屋の中を捜索していたのであろう反乱軍の一部が衣装部屋までやって来て、ドレスを掻き分けた。

そしてついに身を隠していた私の姿が露わになってしまう。

「じょ、上官っ! 王太子殿下ではありませんが、この衣装部屋に女が隠れておりますっ!」

目が合うやいなや、その男は声を張り上げて他の者に知らせてしまった。

その報告を受け、複数の者がこちらへやって来る。

「服装からすると、侍女か? だが、こんなところに隠れているなんて怪しいな」

「ええ。しかもここは王女殿下の寝室の隣です。こんなところに侵入できるなど、只者ではありません」

「もしや王太子殿下のことも何か知っているのでは?」

複数の男たちに疑いの目を向けられ、検分するような厳しい眼差しを向けられる。

ライラが王女になりすましている今、私が本物の王女だと名乗るわけにもいかない。

そんなことをすれば王族を騙ったとしてライラが罪に問われてしまうかもしれないのだ。

私は口をつぐみ、じっと無言を貫いた。
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