人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる
「あの、エドワード殿下の側近の方々はどうなっているかご存知ですか……?」

「王太子殿下とともにほとんどの者が一緒に拘束されたそうだ」

「こ、拘束……。では、ロイド・ブライトウェル公爵も……?」

私はロイドが無事なのかもずっと気になっていた。

エドワード様の側近という立場であるからには、この事態の中心に巻き込まれているのは明らかだ。

案の定、側近のほとんどが拘束されたと聞き、胸が張り裂けそうになる。

だが、私がロイドの名前を出すと、反乱軍の男はなぜか場違いな笑顔を見せた。

「ブライトウェル公爵は……」

「おい! 暴れている者がいて手が足りない! お前も手伝いに来い!」

その男がロイドについて何か言いかけていたところで、残念なことに別の男の声が割り込んできて遮られてしまう。

私と話していた男はハッとすると、もう無駄話は終わりだと言わんばかりに、牢に鍵をかけて外の方へ飛び出して行ってしまった。

 ……肝心なところで邪魔されてしまったわね。やっぱりロイドも側近として拘束されてしまったのだわ……。でも反乱軍の男が一瞬見せたあの笑顔はどういうことかしら?

一抹の不可解さを感じながら、私はため息を吐き出すと、その場にへなへなと座り込んだ。

石畳の床はひんやり冷たく、きちんと整備されているわけでもないからゴツゴツしていて座り心地も良くない。

じっとしていると頭に思い浮かぶのは、ロイドに危害が加えられるような場面だ。

私は自分の体を抱きしめるように三角座りをしてぎゅっと膝を抱える。

思わずしてしまう嫌な想像を振り払うように、固く瞼を閉じた。

ただここに来るまでに、エドワード殿下に迫られ、反乱が起きて身を隠し……といきなりの非日常が押し寄せてきて私の体は疲れ果てていたのだろう。

目を閉じていると自然と瞼が重くなってきて、いつの間にか私は眠りに落ちてしまっていた。

次に目を覚ましたのは、カツンカツンという石畳みを歩く足音が耳に飛び込んで来た時だった。

 ……あら? ここはどこ? そうだ、拘束されて牢屋に入れられていたんだったわ。どうやら眠ってしまっていたようね。……足音ってことは誰かこちらに来るみたいね。尋問でもされるのかしら……?

眠気まなこでぼんやり牢屋の入り口の方に目を向ける。

すると、そこにはスラリと背の高い一人の男性が立っていた。

こんな牢屋には似つかわしくない上質な生地の服に身を包んだその男性は、おもむろに鍵を開ける。

まだ眠りから覚めたばかりでぼーっとしていた私は「尋問のためにわざわざ牢屋の中に入るなんて変わってるわね」とうっすら思いながら、その様子を見つめる。

だんだんと目のピントも合ってきて、その男性が牢の扉を開けて中へ入って来た時には完全に目が覚めた。

そしてその姿を認め驚いた。

「ロイド……⁉︎」

そこにいたのは、拘束されていて身動きが取れないはずのロイドだったのだ。

バラ祭り以来、実に1ヶ月半ぶりに目にする姿だった。
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